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記者の眼

インターネットにおける“通信の秘密”とは?---ぷららの「Winny遮断」に対する総務省見解を受けて

藤川 雅朗=日経NETWORK 2006/06/09 日経NETWORK

 サッカーW杯日本代表の選出にはちょっとした“サプライズ”があったが,5月17日に総務省がぷららネットワークスの「Winny(ウィニー)遮断」に対して示した見解には一切サプライズはなかった。「ぷららのWinny遮断は適切ではない」---。この総務省見解に対して各方面に取材した結果と,今後のWinny問題の展開について考えたことを今回はまとめてみたい。

 なお,総務省による見解が示されるまでの経緯および筆者の考えは,記者の眼『ぷららのWinny遮断は是か非か』(前編)同(後編),および記者のつぶやき『Winnyによる情報漏えい事件を終息させるには?』を参照してほしい。

■正当な業務であれば“通信の秘密”に抵触してもいい?

 まず,総務省の見解を確認しておこう(以下の内容は,総合通信基盤局電気通信事業局消費者行政課の石井芳明課長補佐に取材した内容を基にしている)。

 総務省は,ぷららのWinny遮断に対して「電気通信事業法に照らし合わせると問題がありそうだ」という見解を示した。こうした結論に至った経緯を整理すると,二つの異なるポイントが関係している。それは,(1)Winnyの通信を識別することが「通信の秘密を侵してはならない」という条文に抵触する可能性があるという点と,(2)ぷららがWinnyを遮断する目的が電気通信事業者の“正当な業務”には該当しないという点である。

 (1)から順に見ていこう。

 総務省は,パケットの振る舞いやヘッダー情報などを調べて通信を識別する「ディープ・パケット・インスペクション」(詳しくは「ぷららのWinny遮断は是か非か(前編)」を参照)については,通信の秘密を侵害する可能性があり問題だという見解を示した。

 ただ,実際には“通信の秘密”に抵触していると思われるにもかかわらず,サービスとして運用されているケースは多くある。例えば,加入電話の発信者番号通知は,通信の秘密に属する発信者の番号を着信者側に通知する(漏らす)サービスだ。スパム・メール対策として,スパムと思しきメールのSubjectに[spam:]や[迷惑メール:]といった文字列を追加するサービスや,スパム・メール対策の「Outbound Port 25 Blocking」と「Inbound Port 25 Blocking」でも,通信の秘密は必ずしも守られていない。

 また,WinnyなどのP2Pファイル共有ソフトのトラフィックを制限することだって,ぷららがWinny通信を識別するのと同様のしくみを使っている。どういうケースが“通信の秘密”の侵害に当たり,そういうケースが該当しないのか,これらの例を見ても判断はつかない。

 実は,ここで挙げたすべての例が“通信の秘密”の侵害に当たる。では,上記の例が許されて,なぜぷららのWinny遮断は許されないのか。その違いを決めるのが,二つめの「正当な業務かどうか」というポイントだ。つまり,「正当な業務範囲内であれば,トラフィックを識別するといった“通信の秘密”の侵害に当たる行為も許されるケースがある」(消費者行政課の石井課長補佐)という。

■通信事業者にとっての“正当な業務”とは?

 では,通信事業者にとっての“正当な業務”とは何だろうか。(2)として示したこの点が,総務省見解のポイントとなりそうだ。

 これについて石井課長補佐は,「通信を正常に伝達し,媒介する業務」と説明する。そもそも通信事業は通信を媒介する事業であり,それが正当な業務に当たるというわけだ。

 この基準を理解すると,ニフティやぷららのようにP2Pファイル共有ソフトのトラフィックを制限するのは許されて,ぷららの今回のWinny遮断が許されないのはなぜなのかがわかる。いくつかのプロバイダがP2Pファイル共有ソフトのトラフィックを制限するのは,P2Pファイル共有ソフトの膨大なトラフィックによってほかのユーザーの通信に悪影響を及ぼす可能性があるから。つまり,「ユーザーの通信を正常に伝達する」という正当な業務のためには,通信の秘密を侵してトラフィックを識別し,P2Pファイル共有ソフトの通信を制限することも許されるという見解である。

 一方,ぷららが今回Winnyの通信を遮断する目的として挙げたのは,「ユーザーのセキュリティを守り,情報漏えいの2次被害を防ぐ」ということ。つまり,「特定の通信を遮断すること」が目的となっており,「通信を正常に伝達する」という通信事業者の正当な業務とは180度異なる。つまり,総務省は,ぷららのWinny遮断を「通信事業者の正当な業務の範囲内にない」と見なしたわけだ。

 ブログなどを見ていると,多くの人が,「ぷららはWinny遮断の目的をセキュリティ対策だと言っているけど,本当の目的は爆発的に増大するP2Pファイル共有ソフトなどのトラフィックにネットワーク設備を増強することなく対応するため」と見ている。しかし,ここまで見れば,これが見当違いだということが分かるだろう。なぜなら,ネットワークを守るためなら,ある程度のトラフィック制御は許されるという判断をすでに総務省が示しており,さらに踏み込んで,通信を遮断するという措置を取る必要はないからだ。ネットワークを守るためにP2Pファイル共有ソフトによって急増したトラフィックに制限をかけることに対して,総務省は問題視していない。

 こうした状況下でぷららがWinnyの遮断を打ち出したのは,P2Pファイル共有ソフトに起因するトラフィック問題への対策ではない。ぷららの狙いは二つあると筆者は見ている。一つは,ぷららの発表通り,ユーザーのセキュリティ保護およびWinnyを介した情報漏えいの2次被害を防ぐということ。もう一つは,「ぷららネットワークスはセキュリティ対策やユーザー保護を常に考えているプロバイダである」ということを広くアピールすることだろう。

■「ケース・バイ・ケースで対処すべき」

 話が少し脱線したので元に戻そう。

 ここまで見てきた総務省の見解に対し,IT関連の法律に詳しい岡村久道弁護士にも話を聞いた(岡村弁護士には「ITpro Watcher」で『IT弁護士の眼』を連載して頂いている)。

 岡村弁護士は,「今回の総務省見解は妥当」と理解を示した。「仮に,法律に違反するようなトラフィックが流れていようと,それを止めるのに,通信事業者が通信事業法に違反していいわけではない。拙速に“通信の秘密”を侵害するような措置を認めるべきではない」(岡村弁護士)というのがその立場だ。

 ここまで見てきたように,個々の通信サービスでは“通信の秘密”の侵害に当たるような行為を通信事業者に対して認めている。しかし,こうした状況は一朝一夕にできあがったものではない。「スパム・メール対策などの措置は,徹底した議論を行い,それを踏まえたうえで認められてきたもの。その点,WinnyなどP2Pファイル共有ソフトのトラフィック遮断という制限処置については,まだまだ議論が尽くされていない」(岡村弁護士)。

 さらに岡村弁護士は,「こうした問題は個々で折り合いを付けていかなければならない」とも指摘する。発信者番号通知や,スパム・メール対策は,ともに“通信の秘密”の侵害に抵触する可能性はあるが,それぞれの状況に合わせて,総務省の研究会などでガイドラインが作られてきた。Winny遮断に関しても同様に,ケース・バイ・ケースで対処する必要があるというわけだ。

 ちなみに,「Winny遮断は“検閲”に当たるのではないのか」という疑問を岡村弁護士に投げかけたところ,「検閲にはならない」という回答を頂いた。検閲というのは,公的な権力者が内容を審査して,不適当と判断したものの公表ややりとりを禁止すること。“公的な権力者”でない電気通信事業者には当てはまらないという。

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