今ホットな話題の一つに,6月1日に実施された駐車違反の取り締まりの民間委託がある。記者は自動車やオートバイはおろか自転車すら持っていないので取り締まられる側の気持ちを代弁する資格はなく,ここで取り締まり法や民間委託の是非について論じるつもりもない。その一方で,企業情報システムの記者という立場に立つと,先日テレビで見た取り締まりの模様には,感心する部分があった。テレビ映像によると,違反車両の撮影に,ごく普通の民生品のデジカメ(ディジタル・スチル・カメラ)が使われていたのだ。

 民間委託による違法駐車の取り締まりに使うIT(情報技術)機器は大きく,(a)写真を含めたデータ入力用のモバイル端末,(b)違法車両に貼り付けるシール「確認標章」をプリント・アウトするプリンタ,(c)違法車両を撮影するためのデジカメ --- の3つの要素に分類できる。実際には運用母体によって細かいシステム実装は異なるが,デジカメへの業務要件はゆるやかであり,最低解像度や夜間撮影に使えることなどが仕様として取り決められている程度である。

 先日のテレビを見るまで記者は,駐車違反取り締まりの民間委託という公的業務であるからは,ハードウエア仕様の細部までがきっちり定められ,金型まで起こした専用の機器を使うものだと思い込んでいた。調達方法が買い取りなのかリースなのかレンタルなのかは知るすべもないが,いずれにせよ,それらの機器は特注品で,それなりの予算がかかっていると盲目的に信じ込んでいたのである。素直に謝りたい。

 デジカメを内蔵した端末を使って取り締まり処理を実施しているケースもあるため一概には言えないが,取り締まりに必要な機器として,装備の一部であれ民生品を使っているケースがあることを知り,記者はうれしさを感じた。どう見ても家電量販店で売っている安価なデジカメを使っている姿に,「コスト削減」という我々ビジネス・パーソンの常識に通じる精神が見え隠れする。大げさな言い方になるが,「同じ苦労を分かち合っている」という連帯感を感じたのである。

コスト削減の“企業努力”をもっとアピール

 これが,万が一にでも,どう見てもカネがかかっていそうな専用機器で武装していたとしたら,興ざめもいいところである。それこそ他人事として無視するのだろう。「所詮,我々ビジネス・パーソンとは金銭感覚が違うんだな」という諦めの感情とともに,コメントする気力もなくなってしまうに違いない。人によっては取り締まりへの反発の気持ちに火をつけることになるかもしれない。

 現実にはコスト削減にも目を向けていたわけだ。記者としては,がぜんその部分に注目し,応援したくなった。人情に訴えかけてくるのだ。そうでなくても取り締まられる側からはとまどう声が多く上がっているのだから,いっそのこと民間委託業者のIR(投資家向け広報)情報を分かりやすく整備し,簡単に閲覧できるようにしておいたらどうだろうか。お役所的な無駄なコストを極力かけないようにして取り締まる姿勢を見せれば,少しでも味方が増えるはずだ。株式を公開していない企業であっても,社会に対峙する真摯な姿を見せるためには,情報の開示という姿勢はイメージ戦術上,重要である。

 さて,民生機器のデジカメを使ってコストを減らしている違法駐車の取り締まりだが,現状よりも,もっとコストを削減する方法がないだろうか。もちろん,民生機器の進化次第であるが,記者は携帯電話などのモバイル端末製品の活用によって,さらにコストが削減できるものと信じている。例えば,携帯電話なら,任意の業務アプリケーションを動作させられるようになるし,GPS(Global Positioning System)や地図データと連動した位置情報システムも利用できる。内蔵カメラもすでに車種やナンバーを確認できるレベルの写真が十分撮影できることは,コンシューマがよく知っている。

 現在はデータ伝送のリアルタイム性が要求されないため,無線を使うのではなく警察のコンピュータに端末を接続してデータを読み込んでいるようだ。いずれは,携帯電話のデータ通信や公衆無線LANサービスなどの無線通信インフラを使ってデータが送れるようにもなるだろう。

 取り締まる人材を民間に委託するだけでなく,安価なコンシューマ機器を活用してハードウエアや運用コストを下げる。そんな姿勢をアピールすることも,駐車違反取り締まりの民間委託を一般に理解してもらうための一つの助けになるのではないだろうか。