2年間使い続けた携帯電話を最近,最新機種に変更した。これまではハイエンドの機種を選んできたが,今度は小さくて軽く,機能もとことんシンプルなものにした。どこかに置き忘れたり盗まれて悪用されてしまうと心配なので,「おサイフケータイ」は見送った。

 携帯電話会社も,筆者のように安全性を気にするユーザーが多いことを見越して,さまざまなセキュリティ機能を次々に導入している。紛失した端末に電話をかけてボタン操作を一切受け付けないようにする「遠隔ロック」は,今や標準的な機能になりつつある。指紋認証や内蔵カメラを使った顔認証など,生体認証に対応した機種も増えていきそうだ。

 だが,いずれのセキュリティ機能も,解除する際に「暗証番号を入力する」「指で触れる」などの操作が必要になる。もちろん普段なら大した手間とは言えない。だが,例えばコンビニエンス・ストアのレジでおサイフケータイを使う時,自分の後ろに他の客がずらりと並んでいたら,ごそごそと端末をいじらずに支払いを済ませたい。

 実は,こうした“ひと手間”を解消する新たなセキュリティ技術は,既に実用化のメドが立っている。それが「SPC」(secure private cosm)である。

 SPCはまだそれほどメジャーな技術ではないが,最大手のNTTドコモが採用する意向を持っており,要注目である。そこでSPCがどのような技術なのかを簡単に紹介したい。

 SPCの利用イメージは,自動車のキーレス・エントリー・システムを想像すると分かりやすい。普段はユーザーが身につけた“鍵”と携帯電話が独自の無線機能を使って交信し,ユーザーを認証する。このため携帯電話がユーザーの身の回りにある時には通常通り動作する。しかし,ユーザーが携帯電話から数メートル程度離れると電波が届かなくなるため,携帯電話が自動的にロックされるという仕組みだ。

 携帯電話に向けた短距離の無線技術としては,Bluetoothが先行している。ただしBluetoothの通信距離は約10メートルに及ぶので,端末の“鍵”として使うには電波が届きすぎてしまう。

ドコモが90Xシリーズで採用か


 NTTドコモはSPCを年内にも,ハイエンド機種の「90X」シリーズに搭載すると見られる。 同社は携帯電話による決済サービスを,頭打ちになった通信料収入に続く新たな収益源に育てようと必死。4月末には,おサイフケータイを利用した独自のクレジット・サービス「DCMX mini」を立ち上げたところだ。端末の操作性を落とさないで紛失時の不安を抑えるSPCは,ユーザーに決済サービスの利用を促すための重要なアシスト役を担う。

 KDDIもボーダフォンもおサイフケータイを提供中だが,SPCについては今のところ様子見の段階である。だが両社とも,少なくとも技術の検討は進めていると見られる。両社はNTTドコモとともに,SPCの普及促進を図る業界団体「SPCコンソーシアム」に参加して情報を共有している。

 SPCが役立つのは,おサイフケータイを使う個人ユーザーに限らない。携帯電話を業務に活用している企業にとっては,端末の紛失・盗難による個人情報や企業秘密の漏えいを回避する手段として有望だ。

 ちなみに企業秘密の漏えいというと,ITproの読者であれば「Winny」などの悪用による被害がすぐ頭に浮かぶことだろう。日経コミュニケーションももちろんこの問題を追っており,5月15日号ではスペシャル・リポート「企業ネットの盾を担う プロバイダの『奥の手』」で,対策を急ぐインターネット・プロバイダの本音に迫った。今後もWinny,携帯電話の紛失・盗難などさまざまな角度から,情報漏えいを防ぐ手だてを考えてみたい。