先日,調子が悪かったパソコンのマザーボードを交換し,OSを再インストールしたところ,“思わぬトラブル”に見舞われて日曜日を丸々潰してしまった。

 そもそもOSの再インストールと設定にかかる時間は半端ではない。記者が使っていたOSのCD-ROMは「Windows XP Professional Edition」のService Pack1のOEM版である。CDからのインストール後,40個のアップデートを経てService Pack 2のインストールが続き,さらにその後にいくつかのインストールが必要だった。

 このように,もともとインストール自体,手間と時間のかかる作業なのだが,記者はその過程で遭遇したトラブルによって,再インストールを繰り返すハメになってしまった。その結果,インストール作業に膨大な時間がかかってしまったのである。

 記者は思った。パソコンは仮想化技術によって,早く電力サービスのようなユーティリティになるべきだと。

得体の知れないワーム?に遭遇

 インストール途中で遭遇したトラブルは,実に不可解なものだった。

 現象としては,ネットワークが遅くなり,OSの起動後に数分でネットワークが使えなくなる,というものだった。悪さをしていたのは隠し属性が施された「C:\Windows\System32\Disk.exe」。このソフトがOSの起動時に立ち上がり,何かしらのネットワーク接続を連続で試みる。その結果,TCP/IP接続の試行の上限値を超えると,OSはネットワークを使えなくしてしまう。

 記者は,Windowsファイアウォールの警告によって,この諸悪の根源を発見した。Ctrl-Alt-Deleteを押してタスク・マネージャを開いてみると,このプログラム(Disk.exe)が活動していることが分かった。そこでRegedit(レジストリ・エディタ)で検索すると,起動時に立ち上げるプログラムを書く部分「HKEY_LOCAL_MACHINE\Software\Microsoft\Windows\CurrentVersion\Run」に「Windows Update Disk」という項目で「Disk.exe」の値が書かれている。レジストリのエントリを削除しても,メモリー上に常駐して活動しているプロセスが,再度レジストリにエントリを書き込んでしまう。

 結局,稼働中のプロセスを殺し,レジストリを書き換え,プログラムのファイル自体を消去して対処した。愚かなことに記者は,Disk.exeの中身を調べることとバックアップを取っておくことを忘れてしまった。とっととインストールを終わらせることを優先して問題のファイルを消してしまうとは,記者失格である。

 どう見ても,この振る舞いはワームとしか思えないのだが,不可解な点は2つある。最大の不可解は,ウイルス対策ソフトでコンピュータ全体をスキャンしてもワームを発見できなかったことである。削除してしまったファイルを元に戻す手間が惜しいために真相は闇の中だが,もしかしたら新たなワームの亜種かも知れない。

 もう1つの不可解は,どこからワームが侵入したのか皆目見当が付かないことである。侵入したとすると,OSの再インストールに使った,デバイス・ドライバを収録したCD-ROMくらいしか思い当たるフシがない。

 悪さをしていたプログラムを排除することで,ようやくネットワークにアクセスできるようになった。まずは,Disk.exeなど,覚えている単語で“ググって”みた。色々なワーム情報のページがヒットしたが,シマンテックの名称では「W32.Redesi@mm」とその亜種である「W32.Redesi.B@mm」が見つかった。説明を読むと,何となくこのワームのような気もするけれど,違うような気もする。もしこのワームであったのなら,ウイルス対策ソフトが全スキャン時に発見してもよさそうだという疑問が残る。

パソコン環境をユーティリティ化したい

 記者は今回の一件から痛感しているのだが,かつて多くのユーザーがNEC PC-9801とMS-DOSを使っていた時代とは異なり,現在のWindowsパソコンの管理はとても面倒である。パソコンはまるで生き物のように毎日姿を変えている。

 記者はディスク上にある全ファイルを把握できているわけではないし,常駐プログラムがメモリーをどう使っているかにも無頓着だ。メンテナンス性を確保しようと思ったら,いつでも安定稼働していた状態に戻せるよう,その時その時のスナップ・ショットを取っておくくらいしか思いつかない。

 記者のパソコンの利用状態には,恥ずかしい話だが「フェイルセーフ」の概念がない。自慢するわけではないが,記者は雑誌の記者をしていた時代には,印刷原稿用の銀塩カメラであるNikon F4Sを2台持ち歩いていた。いつ壊れても仕事ができるようにするためだ。実際,1度だけ仕事中にカメラをぶつけて壊してしまい,もう1台が役立ったことがある。

 このように,フェイルセーフは本来,対価を得て労働するプロフェッショナルにとっては死活問題のはずだ。ところが,毎日姿を変える生き物のようなパソコンに限っては,壊れたら元に戻せない状況なのである。

 スナップショットを取っておくのでも,その都度アプリケーションや設定をインストールするのでも構わないが,いずれにせよ,ある程度はパソコンの環境をコントロールできないとユーザーとしては安心できない。逆説的な表現だが,ソフトウエアやハードウエアの構成をサーバー側で管理するサーバー・ベース・コンピューティングによって,ユーザーはユーザー自らのパソコン環境をコントロールしやすくなるのではないだろうか。

 フロントエンドでは決して構成が変わることのないハードウエアを用い,ROMやネットワーク・ブート経由で呼び出した画面情報端末アプリケーションを動的に起動し,Windows環境やハードウエア環境はASPサービスとして利用できるようにする。こうなると便利だと思う。実際,こうした製品は既にある。

 一般に,ユーティリティと言えば電力をはじめとする公共系のサービス・インフラのことを指す。パソコン環境も電気ガス水道電話と同じように,早くユーティリティ化して欲しい。あの一件以来,記者はこのことを強く実感している。