常にさまざまなバズワード(流行語)で彩られるIT業界。現在,最も旬な言葉を二つ挙げるとしたら,それは「Web2.0」と「SOA」(サービス指向アーキテクチャ)だろう。日経コミュニケーション編集部に属する筆者は,幸運なことに,この両者をテーマに取材できる立場にある。

 そして,最近の取材中に感じるのは「“SOAの人たち”がWeb2.0に言及し始めた」という点だ。ここで言う“SOAの人たち”とは,伝統的なコンピュータ・ベンダーや通信事業者に属する方々のことである。これらの企業への取材中に,半ば雑談として「Web2.0をどう思いますか?」と話を向けると,筆者の予想以上に積極的な意見を披露してくださる方が多い。

 ある通信事業者の幹部は「我々がGoogle Mapsのようなサービスをやれば,帯域やネットワークのコントロールを含めて,面白いことができると思う。ただ,ちょっとそこまでは手が回っていない」とやや残念そうに語る。

 筆者にとってこれは意外なことだった。Web2.0とSOAは完全に別物で,世界が違うと思っていたからだ。

 実際,Web2.0とSOAは世界が違う。インターネット業界の人が語るのがWeb2.0,コンピュータ業界の人が語るのがSOA。ジーンズにポロシャツといったラフな格好の人が語るのがWeb2.0,ダークスーツに身を包んだ人が語るのがSOA。「We love blog」のステッカーを貼ったiBookでプレゼンするのがWeb2.0,ThinkPadでプレゼンするのがSOA——。いずれも筆者が取材で実際に体験したことだが,両者にはこのような文化的な差異がある。

 だが,表層的な違いに惑わされず,本質を見ると,両者はかなり似通っていることに気付く。

 SOAはアプリケーションを複数のサービスとして開発し,ネットワーク経由でサービス同士を連携させるモデル。連携にはSOAP(Simple Object Access Protocol)などXML(eXxtensible Markup Language)の技術が使われることが多い。

 一方,Web2.0の重要な概念の一つである「マッシュアップ」は,他社が公開しているサービスを使って新サービスを作り出すモデルだ。他社のサービスの利用にはSOAPやREST(REpresentational State Transfer)など,やはりXMLの技術が使われる。技術的に見れば,SOAとWeb2.0(のマッシュアップ)は分散アプリケーションを実現するという意味でそっくりである。

 SOAの人たちは,一般紙にまで取り上げられるようになった「Web2.0」という流行語の浸透に,ある種の焦りを感じているのではないかと思う。取材中にWeb2.0に対してSOAの人たちが饒舌(じょうぜつ)になるのは,その表れだと筆者は感じた。自分たちも同じことをやっているのに,それがSOAではなく,Web2.0として世の中に広まってはたまらない,という焦りだ。

 Web2.0(のマッシュアップ)とSOAはまったく異なる背景から生まれてきたが,目指す方向は近い。また,インターネットから出現したWeb2.0が,SOAの土俵である企業システムの世界へ進出する可能性も高い。

 両者が今後融合してゆくのか。それとも一方がもう一方を飲み込むのか。それはまだ分からないが,今後1年くらいはWeb2.0 vs SOAの“主導権争い”が起こるのではないかと予想したい。