インターネット通信事業者(ISP)のぷららネットワークスは2006年3月16日,ファイル交換ソフト「Winny(ウィニー)」のトラフィックを遮断すると発表した。同社は遮断開始の時期を明確にしていないが,一部報道によれば5月ごろにも開始する模様だ。これが実現すれば,インターネット接続を生業とするISPが特定のアプリケーションの通信を公に禁止する,過去に前例のないエポック・メイキングな事例となる。

 従来から,ピア・ツー・ピア(P2P)型のファイル交換ソフトはISPにとって悩みの種だった。帯域の多くがファイル交換に占有されてしまい,バックボーンへの設備投資の費用をペイできなくなる恐れがあるからである。特に,下りではなく上りのトラフィック,つまり,自社と契約しているユーザーがインターネットにファイルを公開し,ほかのISPと契約しているユーザーからのダウンロードが殺到する,このトラフィックが問題となる。

 こうした理由から,ファイル交換のトラフィックに対して帯域制御を施す例が,複数のISPで見られた。ファイル交換を行いたいがために高速なアクセス回線を選択したユーザーは,こうしたISPの帯域制御に不満を抱いた。ベスト・エフォート型のサービスとはいえ,明示的に特定のアプリケーションの帯域を減らされたら,当初の目的であるファイル交換の利用機会が奪われるからだ。

 そして今回,帯域制御にとどまらず,ついにISPがWinnyの全面遮断を決定した。ぷららネットワークスの発表によれば,遮断の理由は,Winnyによる情報漏えいを防止する,というもの。個々のユーザーごとにWinnyのトラフィックを遮断するマネージド・サービスの提供にとどまらず,ぷららネットワークスが運営するネットワーク全体で一律に遮断する。

 該当するトラフィックがWinnyであるかどうかは,トラフィックのパターンを解析することで判別するという。通信事業者には,法律によってユーザー間の通信の中身を暴いてはならないことが定められているが,通信内容を傍受しているわけではないため,今回の措置は法律に抵触しない,とぷららネットワークスは説明している。

 ISPはインターネットとの接続性をユーザーに提供する。これまで,希望者に対してネットワーク機器の運用保守サービスやウイルス対策などのコンテンツ・フィルタリング・サービスを提供することはあっても,運用ポリシーによって通信を遮断することはなかった。この意味で,今回のぷららネットワークスの決断は,ISP事業に一石を投じるものだ。

 新規のユーザーから見れば,運用ポリシーの異なる複数のISPから自分に適したISPを選べばよい。ISP側は,どういうサービスを提供するのか,どういう運用ポリシーを持っているのかをユーザーに分かってもらう努力をすればよい。商売という観点で見れば,これは純粋に市場経済に身を委ねることに過ぎない。

 一方,既存ユーザーの既得権益がISPの運用ポリシーの変更によって侵される点はどう考えればよいだろうか。運用ポリシーが変更される可能性があることは,契約時の定款には書いてあるだろうが,扱いが難しい問題である。

 一つ確実に言えるのは,ISPと契約すればアプリケーションの種類に関わらずインターネットを利用できる,という従来の常識を見直さなければならない時代がやってきたということだ。これはインターネット接続サービスの革命であり,2006年という年はその歴史に残ることになる。

◎参考資料◆ぷららバックボーンにおける「Winny」の通信規制について