正直に白状する。どうもここ1~2年のインターネットの動きがしっくりこなかった。

 検索サービスの米グーグルが世の中を変えるとの論調が瞬く間に広がったり,個人の間でブログのユーザーが爆発的に増えたり,mixi,GREE,はてな,オウケイウェイヴなどのSNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)なるものが急速に利用者を増やしたりといった現象だ。

 よく分からないものが社会に評価されて広がっていく様を横目で見ながら,はやりの「1.0と2.0」の対比で言えば,「こりゃ“記者1.0”には理解できない“2.0世界”が来てしまったか」との思いにとらわれもした。

何も売っていないのにもうかるなんて

 記者が違和感を覚えた一つの要因は,こうした企業のビジネスモデルが直感的に理解しにくいことである。グーグルもmixiもはてなも,モノやサービスを売っているわけではない。サービスは提供していても,無料で使えるので,そこからの売り上げはない。

 同じネット企業であっても,米アマゾン・ドットコムのようにモノを売っている企業とは明らかに違う。どんなに利用者が歓迎して広がっていっても,主に企業向けのIT製品/サービスや,その活用方法,通信事業などを取材してきた記者にとっては,目に見える売買が存在せず,ビジネスとして“危うい”印象をぬぐえなかった。

 モノもサービスも売らないネット企業の代表的な収益源は,ご存知のように広告である。「グーグル アドワーズ広告」などの検索連動型広告は,関心のある人に広告情報を届けることができ,高い反応を得やすいという特性から,検索サービス企業の急成長を支えている。

 もう一つが,商品開発などのマーケティング支援の対価である。ターゲットの顧客層に対して,潜在ニーズを調査して新商品の開発に結び付けたり,開発中の商品の反応を探って,よりニーズに合った商品に仕上げる,といった活動の基盤を提供する。

 “口コミ”による既存商品の販促のために,特定の属性を持った人が集まったブログやSNSが利用されるケースもある。売るモノやサービスを潜在顧客に直接訴求する広告に比べて,さらに分かりにくい利用方法だが,顧客のし好が細分化する多品種少量生産の時代にあっては,リスクを抑えて売れる商品を生み出したいメーカーのニーズにぴたりと合う。広告同様に,開発費や販促費の名目でメーカーからお金が流入し始めている。

“IT企業”ではなかった

 違和感のもう一つの原因は,台頭してきた新しい企業がこれまでの業種・業態の枠組みとずれていて,“何者なのか”をすっと理解できなかったことにある。

 製造・流通・金融など,既存の企業がネット事業に乗り出す際は,既存事業の強化・拡充の一環に位置づけるのが一般的だし,そうでない場合も単に取り扱い品目を広げるだけの形態が多かった。モノやサービスを売る企業の大半は,ネット上のビジネスモデルとしても,モノやサービスを売ることを選んでいたわけだ。数年前まで,ネット企業の事業と言えば「EC(電子商取引)サイト」という言葉に代表される物販サービスがほとんどであり,販売チャネルがリアルからネットに移っただけで,記者にとっても変化は“自然”に感じられた。

 ところが,グーグルやはてなのように,最初からネット上で生まれた企業の中から,モノやサービスを売らないところが出てきた。金融商品を扱っていれば,リアルの企業もネット企業も同じ金融業だし,旅行商品を扱っていればリアルでもネットでも同じ旅行業である。しかし,グーグルなどにはこうした類型化が通用しない。「ネット企業」,「IT企業」といった呼称で,製品/サービスを売るコンピュータ・ベンダーやEC事業者などと一くくりに語られることが多かったことも,直感的理解を妨げる要因になっていたように思う。

 恥ずかしながら,最近になってようやく頭の中の整理がついた。同じようにネット企業やIT企業と呼ばれていても,グーグルなどのモノやサービスの売り上げに頼らない企業は,ほかとは別物なんだと。広告や販促支援を大きな収益源とする典型的な事業は,業種で言えば「メディア事業」。なんのことはない,記者が属する出版社の同業者だったわけだ。

 魅力的なコンテンツによってより多くの読者・視聴者を集め,読者・視聴者の属性に応じた広告・販促の場を提供して対価を得る---。既存のメディア事業者との違いは,従来の放送技術や出版技術ではなく,インターネット分野でITベンダー顔負けの技術者をそろえ,高い技術力を駆使して,効果的な広告メニューの開発や,広告を見てくれる利用者数を増やすことにまい進している点である。

 とはいえ,その技術力は投資家の評価材料にはなっても,営業売り上げを直接生み出しているわけではない。技術や技術力そのものに値段をつけて売っているソリューション・ベンダーなどとは異なるビジネスモデルである。

 あえて不明をさらしたのは,自分と同じ40代以上の“おじさん”と話していると,どうも「なんとなく腑(ふ)に落ちない」と思っている人が多いように感じたからである。エンタープライズ・システムを見てきた人たちが,「Web 2.0」世界をけん引しているプレーヤーが何者なのか,自分なりに直感的に理解するためのヒントにでもしていただければと思う。記者自身はこれまでを反省し,新分野の取材に注力していくつもりである。