あなたの情報を守るために呼びかけを

 「Winny問題」は,今までのウイルス問題とは大きく異なる。今までのウイルスは,ウイルス作者以外を利することはほとんどなかった。報道する立場からすれば,「こんなウイルスが出現している。注意しろ!」と呼びかけていればよかった。警告することに副作用はなかった。特定のソフトだけが影響を受けるウイルスについて注意を呼びかけた場合,そのソフトの利用を止めるユーザーはいても,そのソフトをわざわざ使い始めるユーザーは存在しなかった。

 ところがWinnyウイルスについては,その被害を詳しく報じれば報じるほど,新たな被害者/加害者を生む悪循環となっている。悩ましい限りだ。とはいえ,危険が存在するのに,報じないわけにはいかない。考えた末に出した答えが「今までどおり,地道に注意を呼びかける」という,ありふれたものだった。「これさえやれば大丈夫」という特効薬がない以上,この程度のことしかできない。

 ただ,従来よりもリスクを強調する必要があると考えている。前述したように,他人の流出情報を見ようとWinnyを始めるユーザーは,自分からは情報が流出しないと考えているふしがある。「官公庁や大企業からの情報流出が報じられているが,中小規模の企業や個人ユーザーからの流出も多いと考えられる。ただ,“ニュース・バリュー”がないから取り上げられないだけ。官公庁や大企業だけから流出しているわけではない。『自分だけは大丈夫』などとは決して思わないでほしい」(IPA セキュリティセンター ウイルス・不正アクセス対策グループ グループリーダーの小門寿明氏)。

 一連の報道を見てWinnyを始めようと考えているユーザーは,なぜWinnyにまつわる事件がこれほどまでに報道されているのかを改めて考えてほしい。「自分はそこそこスキルがあるからウイルスに感染することはない」と考えている人ほど危ない。「自分のスキルを過信している“中級レベル”以上のユーザーが被害に遭っている」(ネットエージェント 杉浦氏)。

 Winnyウイルスは日々“進化”している。「自分自身をフォルダに偽装して,ダブルクリックされるとダミーのフォルダを開いて,ウイルスが動き出したことを気付かせない」といった亜種も存在する。自分のスキルが高いと思っても,心がけだけでは防げないのが現状である。ウイルスの方が一枚も二枚も上手なのだ。

 内閣官房情報セキュリティ センター(NISC)では,その発表資料(PDFファイル)の中で,

ファイルの流出はあなた自身にとどまらず,あなたの勤務先や家族・友人等にも大きな不利益を与えます。場合によっては,職を失ったり人間関係が崩壊したりすることにもなりかねません

と警告している。このリスクを負ってまで,Winnyを始める必要があるのか,そこまでして見たい情報なのかどうか,改めて考えてほしい。

 もう一つ。Winnyを使っていない方にもお願いしたいことがある。身の回りのユーザーに,Winnyウイルスの危険性を呼びかけていただきたい。「自分がWinnyを使っていなくても,知人から個人情報などが流出する可能性がある」(IPA 加賀谷氏)ためだ。あなたの知人がWinnyウイルスに感染して,あなたが送った私信などがネット上に放流される可能性がある。流出した情報は,コレクタたちのネタになるだけではなく,「振り込め詐欺などに悪用される恐れもある」(IPA 小門氏)。

 冒頭で書いたように,Winny問題は一過性のものではない。時間をかけて,現在のような社会問題に発展した。その分,そう簡単には終息しない。「Winny問題はまだまだ終わらない」との意見は,今回取材したすべての専門家から聞かれた。ITproでは特設サイトを用意して注意を呼びかけているが,今後も,じっくり腰をすえてこの問題を報じていきたいと考えている。

 読者のみなさまには,「情報流出の被害者や加害者にならないよう対策を施す(ウイルス対策ソフトを使う,信頼できないファイルは開かない,ネット利用にはリスクが伴うことを認識する,など)」ことに併せて,「知り合いが被害者や加害者にならないように注意を呼びかける」ことを,ぜひともお願いしたい。