記者は先日,「どうする『寿命切れ迫るWindows XP』」という記事を執筆した。これは,Windows XP Home Editionのサポート(特にセキュリティ・パッチの提供)が「Windows Vista」発売後2年で終了する可能性があることを取り上げた記事だ。同記事を執筆する上で,記者は大いに悩んだ。記者が何を悩んだのか,この「記者の眼」で内情を明かそうと思う。

 米Microsoft社は1月初旬,「Windows XP Home Editionのサポート期間をWindows Vista発売から2年間まで延長する」とWebサイトで明らかにした(関連記事)。XP Home Editionは現行のOSである。2006年内に予定されているVistaの発売後2年でサポートが終了するならば,「現在売られているXP Home搭載パソコンの寿命が,3年以内に終了する」ことになる。この発表を読んだ記者は「これは大変なことであり,今すぐ多くの読者に伝えなければならない」と感じた。

悩みその1:伝えることがユーザーの利益になるのか?

 その一方で,「寿命切れは広く知られない方が良いかもしれない」と思ったのも事実である。

 マイクロソフトがサポート・ポリシーを変更するのはよくあることだ。多くのユーザーが何も知らずに今後もXP Home搭載パソコンを購入し,2009年になっても大半のユーザーがXP Homeを使い続けていたなら,マイクロソフトとしてもXP Homeのサポートを再延長せざるを得なくなるだろう。セキュリティ・パッチ未適用のWindowsが増えれば,ワームやウイルスがまん延する危険性が高まり,Windowsの信頼を落とすことにつながりかねないからだ。

 もしXP Homeのサポートが再延長された場合,記者は「読者に本来必要ないXP Professionalを買うよう推奨した」ことになってしまう。また逆に,ユーザーがサポート切れを警戒して,よりサポート期間の長い「Windows XP Professional」や「Windows Vista」を選択した場合,マイクロソフトとしてはXP Homeのサポートを打ち切りやすくなる。XP Homeの寿命が短いことを伝えることが,本当にユーザーや読者の利益になるのか,記者は大いに悩んだ。

悩みその2:本当にサポートが切れたらどうする?

 しばらく悩んだ記者は,「XP Homeが再延長されることを前提に悩んでも仕方がない」という結論に達した。

 まずはマイクロソフト日本法人に,この件を問いただしてみよう。もし,再延長を匂わせるような回答が戻ってきたら,そのときは「再延長の可能性が高い」と書こう。なあに,どうせ再延長されるだろう---そう思って,記者はマイクロソフトに質問票を送った。その返答が,「どうする『寿命切れ迫るWindows XP』(第2回)」で紹介したマイクロソフトからのメールであった。

 メールを読んだ記者は,正直言って頭を抱えた。マイクロソフトは本気で,XP HomeのサポートをVistaの発売後2年で終了する考えであった。事実をありのまま伝えなければ,ユーザーを危険な状況に陥らせかねない。記事を書くのが読者の利益だ---記者はそう考えた。

 それでも,悩みは尽きないのである。

悩みその3:これは「けしからん」ことなのだろうか?

 次なる悩みとは,事実をどういうスタンスで報じるべきかというものである。

 記者個人の感覚で言えば,マイクロソフトの今回の発表は「けしからん」と思う。最新の製品がたった2~3年で寿命切れになっていいのだろうかと,1ユーザーの立場としては疑問に感じる。Windows 98/Meは,Windows XPの発売から約5年間セキュリティ・パッチ(緊急のみ)が提供されている。だから記者は,Windows XP Home Editionも同じぐらいの期間はサポートされることが望ましいと思う。

 しかし,マイクロソフトを「けしからん」と訴えるだけの法律的な根拠は無い。まずソフトウエアは無体物なので,製造物責任法(PL法)の対象ではない。またマイクロソフトに限らず,ほとんどのソフトウエア製品の「使用許諾契約書」には,「ソフトウエアに欠陥があったとしても,ソフトウエア・メーカーは一切の保証をしない」と明記されている。多くのソフトウエア製品は,「ソフトに欠陥があったとしても文句を言いません」という条件を認めたユーザーしか,使ってはいけないことになっているのだ。

 さらに,記者は「パッケージ・ソフトウエアが安価なのは無保証だから」と指摘する識者の意見を聞いたことがある。記者個人が「XP Homeのサポートが短い」と感じたからと言って,サポート延長をひたすら追求すると,今後,Windows OSの価格上昇を招くことになりかねない。

事態を変えられる力を持っているのは「ユーザー」だけ

 そもそも,マイクロソフトに態度を改めさせる力を持っているのは,ユーザー(消費者)だけである。ユーザーがマイクロソフトのサポート・ポリシーを正確に理解し,それに対して適切な態度を示すことが,ユーザー自身のセキュリティを保護することにつながると記者は考えている。そのために記者ができるのは,事実をありのまま伝えることだけだ。

 読者の皆さんは,「どうする『寿命切れ迫るWindows XP』」を読まれて,「どうあるべき」と感じられたであろうか。記者が願うのは,皆さん自身が気持ちや考えを表明してくださることである。

 表明する相手はマイクロソフトであっても,パソコンにプリインストールされているWindowsをサポートするのはパソコン・メーカーであるのでパソコン・メーカーに対してでも,また自作ユーザーが好む「OEM版(正式にはDSP版)Windows」のサポートは販売店の責任であるのでPC販売店であってもいい。

 読者の皆さんが自分の言葉で,マイクロソフトや「Windowsをサポートする企業」に意見を伝えるチャンスは多いと,記者は考えている。