インターネットの普及により,便利になったことの1つに顧客アンケートがある。アンケートのWebページを用意することで,手軽に一般消費者の声を収集できるようになった。紙ベースのアンケートに比べ,コストも安い。「おおまかな傾向を知りたい」「短期間に一定の回答数を集めたい」といったときには特に有効だ。

 その一方で,「紙でもWebでも,アンケートからは次のアイデアが見つからなくなった」と頭を抱える人たちがいる。商品開発の担当者やマーケティングの担当者である。

 彼らは,アンケートの収集・分析にかけてはプロ中のプロである。そうした人たちにとって,インターネットで手軽にアンケートを実施できるようになったことは確かに幸運だった。だが,何度か実践しているうちに,「そこから新商品のアイデアが見つかることはまずない」ということに気づいたようだ。

 実は,日経情報ストラテジーの2006年2月号では「顧客に聞くな!」という,少々乱暴にも思えるタイトルの特集記事を掲載した。ここで,この特集のエッセンスを紹介しよう。

 日本コカ・コーラやサントリー,江崎グリコといった食品のヒットメーカーの商品開発担当者と話をしていると,最近は皆一様に「顧客は答えを持っていない」という話題が出てくる。顧客にアンケートをとっても,新商品につながる顧客のニーズ,つまり答えが見えてこないというのである。

 商品開発担当者たちは「顧客にニーズがなくなったわけではない。自分で自分のニーズに気づかなくなってきただけ」と分析している。

 というのも,顧客自身が思い付くようなアイデアは,既にそのほとんどが商品化されてしまった」というのである。

 例えば,日本コカ・コーラは商品開発担当者が生活者になり切って生活者を演じる「ロールプレイング」をしながら自分の考えを整理したり,街で売られているさまざまな雑誌を数十冊も買い集めて記事を切り抜きしながら,今の顧客の欲求を探る「欲求の棚卸し」を実施。アイデアの新しい見つけ方を模索している。

 欲しいと思っていた商品は一通り手に入った---。そんな顧客に「今度は何が欲しいですか?」とアンケートで聞いても,斬新な答えや切り口はまず出てこない。顧客はプロではないのだから,普段はそこまで深く考えていない。アンケートをとっても,新商品開発に直結するようなアイデアが見つからないのは当然だろう。

 逆に言えば,メーカーとして今後の勝負の分かれ目は,「顧客自身が気づいていなかったニーズを顧客に気づかせてあげられるかどうか」ということになる。そのために,新しいアイデア発想法を試すメーカーが増えてきているのだ。例えば,その典型例が先述した日本コカ・コーラのロールプレイングである。

川又 英紀=日経情報ストラテジー