「自動走行機能があったらな」。クルマを運転していてこう思うことはないだろうか。筆者はよくある。例えば,渋滞の高速道路。単調な上に,見渡す限りクルマのテールランプの状態にはうんざりする。また,クルマで出かけ,出先でお酒を飲みたいとき,我慢を強いられる。帰りに自動走行機能が使えるのなら,気兼ねなくお酒を飲める。

 ところで,現在のクルマは自動走行に向けて進化しているように見える。自動走行を実現するために必要な“地図”となるカーナビだけでなく,周囲の状況を知る“目”や“耳”を備えつつあるからだ。

カメラとレーダーがクルマの目になる

 “目”とは高級車を中心に搭載が始まっているカメラや,測距センサーのこと。自車から見える範囲の情報を得るために搭載している。例えば,信号の状態,先行車両や歩行者,自転車との相対位置,障害物の有無,道路標識などを検知することが考えられる。

 現在のところ,車載カメラを使ったセンサーは車線や夜間に歩いている人といった限定的な用途にのみ利用されている。昼夜問わず,人,クルマ,ボール,バイク,路肩のポール,動物といったものを認識できるまでには至っていない。

 しかし,今後は画像認識の精度が向上することに加え,複数個のカメラを連携させたり,車間距離センサーとカメラを組み合わせることで認識精度を向上させる,いわゆるセンサー・フュージョンが当たり前になる。そうなればさまざまな物が高精度に認識できてくるだろう。

通信で見えない場所をなくす

 一方,“耳”とは今後搭載される可能性が高いクルマの通信機能だ。クルマにおける通信には,大きくクルマ同士で情報を交換する「車車間」と,道路に設置されたセンサーと通信する「路車間」に分けられる。
 
 車車間は,クルマをセンサー・ノードと見なして,互いに情報を交換するもの。自車から見えない範囲の部分を他のクルマから得た情報で補完する。路車間は交差点や急カーブ,凍結しやすい道路などを固定的なセンサーで監視し,その結果を電波を介してクルマに配信する。

 車車間通信の取り組みの一つが,国土交通省が2001年4月~2006年3月までの期間に取り組んでいる先進安全自動車の第3期プロジェクト(ASV-3)で開発した「情報交換型運転支援システム」である。このシステムではクルマ同士が位置や速度,方向を交換することで,お互いの位置を把握する。そして,見通しの悪い交差点などに近づいたときに接近車の存在を通知し,事故を回避することを狙っている。国土交通省は2008年以降の実用化を目指しているが,多くの自動車メーカーが「早くても2010年」と考えている。

 一方路車間は,走行支援道路システム開発機構(AHSRA)や日産自動車などが積極的に取り組んでいる。AHSRAが現在取り組んでいるのが首都高速の参宮橋カーブの状況をカーナビに配信するシステム。参宮橋は見通しが悪く,半径80mという急カーブで事故多発地帯として有名。カーブを曲がりきれずにガードレールに衝突したクルマやカーブ先の渋滞の最後尾に後続車が追突するという事故が頻繁に起きる。カーブ先のセンサーで渋滞を検知し,VICSの電波ビーコンを通じて,カーナビにその状況を通知する。現在,一般に公開した実験を実施中だ。

 日産自動車は2006年9月から新交通管理システム協会や警察庁,神奈川県警察本部,NTTドコモ,松下電器産業,ザナヴィ・インフォマティクスと共同で一般道での路車間通信実験を始める。具体的には交差点での交通標識や信号の状態,接近車両の有無などをVICSの光ビーコンでカーナビに通知する。横浜市内の2カ所で実験を実施するという。

技術の進化がPL法を超える

 このようにクルマが周囲の状況を認知できるようになっていけば,人が運転に介入する必要がなくなるように思える。しかし,自動車メーカーはその可能性を否定する。最大の理由はPL(製造者責任)法。万が一クルマが判断ミスをして事故が起こった場合,自動車メーカーが責任を負わなければならないかもしれない。いくら技術が発達しても,100%大丈夫といえない限り,自動運転は難しい。

 また,研究者の多くは「人間ほど高度には,突発的な状況を判断できない」と考えている。「電車のように走る場所が決まっているものでさえ,突発的な事故に対応するために自動運転に移行できていない。道路状況などあまりにも複雑なクルマの走行環境での自動走行はありえない」(ある研究者)。人,バイク,障害物など道路環境が時々刻々変化する環境ではあまりにも計算することが多すぎるというわけだ。

 とはいえ,高速道路のようなクルマしか走らない場所なら自動走行が比較的容易だ。例えば,すでにあるレーン・キーピング機能と,測距レーダーを使った車間維持機能を使えば,ほぼ自動走行が可能になる。今後,クルマに載るコンピュータはさらに高性能化するし,カメラやレーダーを使った認識精度も向上する。そうなれば,一般道でも自動走行に近いものが実現し始める。そのとき,自動車メーカーが意図しなくても,いつの間にか自動走行システムができ来上がるのではないだろうか。

中道 理=日経バイト