マイクロソフトは2006年2月,サーバー向けOSの新製品である「Windows Server 2003 R2」(以下R2)を出荷する。

 このR2は「中継ぎOS」「枯れたOS」など,さまざまな呼ばれ方をしている。日経Windowsプロ2005年12月号の特集では,前向きに「即戦力OS」と呼んでみた。「マイクロソフトの新製品が即戦力なわけは,ないだろう」という印象を持つ読者の方がいるかと思うが,この呼び名はウソではない。R2は新製品にもかかわらず,導入前の検証作業が従来のOSよりも少なくて済み,新機能をすぐに利用できるOSなのである。

 だが見方を変えると,R2には従来のOSとは異なるマイナス面も目につく。本記事では「中途半端なOS」という面からR2を見てみよう。

Windows Server 2003 SP1を基に機能を強化

 R2は,Windows Server 2003 Service Pack 1(SP1)をベースにして,複数の新機能を追加したマイナー・バージョンアップ版である。マイクロソフトは,この製品を「リリース・アップデート」と呼んでおり,これが「R」の意味するところとなっている。

 R2は,従来のサーバーOSとは異なり,2枚組のCD-ROMで提供される。1枚目には,Service Pack 1を適用したWindows Server 2003が収められている。2枚目には,R2で追加された複数の新機能が収められている。例えば,ファイル・サーバーの共有フォルダ単位で容量を制限するクォータ管理機能,Active Directoryの認証機能を拡張したActive Directoryフェデレーション・サービスなどである。

 前述の通りR2は,Windows Server 2003 SP1がベースとなっているため,安定した動作が期待できる。Windows Server 2003 SP1の提供が始まったのは,2005年4月。当初,SP1の適用によるトラブルが報告されていたが,今では解消されてきた。また,R2で提供される新機能は,デフォルトではほとんどがオフになっている。必要な機能だけをオンにできるので,導入前の検証作業が,さほど多くならないメリットも見逃せない。

 ほかにもR2では,ライセンス面でコスト・メリットがある。R2には,専用のCAL(クライアント・アクセス・ライセンス)が不要で,Windows Server 2003のCALをそのまま利用できる。また,仮想マシン向けに新しいライセンス体系が適用され,R2ではメモリー上で動作している仮想マシンOSの数だけでライセンス料を計算する。従来は,動作させていないハードディスク上の仮想マシンOSについてもライセンスが必要だった。こうした数々のメリット持つOSが,従来と変わらない価格で購入できるのである。

従来のサーバーOS新製品とは異なるR2

 R2にはこのように利点が多数ある一方で,手放しではお勧めできない面もある。

 まず,R2のサポート期間が,従来のOSの新製品と比べて短い点だ。マイクロソフトのビジネス向け製品では,製品が発売されてから5年間(または次期製品が発売されてから2年間)が,有償と無償のすべてのサポートを受けられるメインストリーム・サポート・フェーズと定められている。

 ところが,リリース・アップデートのR2の場合,この期間をR2発売の2006年2月から数えるようにはなっていない。メジャー・アップデートのWindows Server 2003の出荷が始まった2003年6月を起点に,そこから5年間(またはLonghorn Serverの発売後2年間)が,R2のメインストリーム・サポート・フェーズとなる。

 さらにR2では,既存のWindows Server 2003からのバージョンアップ版が販売されない。Windows Server 2003をパッケージなどで購入したユーザーがR2を導入するには,新規に買い直さなければならない。これは,無償バージョンアップの権利が含まれているソフトウエア・アシュアランス(SA)やエンタープライズ・アグリーメント(EA)でOSを購入したユーザーと差を付けるためである。

 具体的な割合は不明だが,サーバーOSをSA/EAで購入するケースは,多いとは言えないだろう。R2のメリットを享受できるユーザーは限られてしまう。この辺りが,R2に中途半端さを感じるところである。

R2とどうつき合うか

 ではユーザーは今後,R2とどう付き合っていくべきなのだろうか。

 R2の出荷後,Windows Server 2003は継続販売されなくなり,すべてR2に置き換わることになる。新規にサーバーOSを購入したいユーザーは,R2を選択しなければならない。しかし,2枚組で提供されるうち1枚目だけをインストールすることも可能だ。こうすれば,Service Pack 1適用済みのWindows Server 2003としてインストールできる。また,R2にはダウングレード権が設定されている。

 Windows Server 2003を現在利用しているユーザーは焦ってR2を導入する必要はない。マイクロソフトはWindows Server 2003からLonghorn Serverへ移行するための手段を用意することを表明しているからである。結局のところ,R2としてこの新OSを導入するのは,R2で追加された新機能を使いたいユーザーに限られそうだ。
 
 最も問題になりそうなのは,今後サーバーOSを購入するときにバージョンアップ権が付いているSA/EAを選択するかどうかである。SA/EAがあれば,無償でR2を入手して,追加機能を利用できる。例えば,追加機能の一つであるクォータ管理ソフトは,サード・パーティ製品を購入すれば1サーバー当たり10万円程度かかる。クォータ管理ソフトの導入を予定しているなら,SA/EAを購入する価値はあるだろう。

 R2というアップデート方式は,マイクロソフトがSA/EAの価値を高める施策の一つでもある。R2は今後も継続的に提供される計画があり,メジャー・アップデートのLonghorn Serverが2007年(予定)に出荷された2年後には,Longhorn Server R2が出荷される。SA/EAの契約期間中にそのR2が出れば,追加のコストなしで新機能を使えるようになる。

 とはいえ,将来のR2で幅広いユーザー企業に役立つ新機能が提供される保証はない。今回のWindows Server 2003 R2では,多くのユーザーがすぐに導入できて,役立つ機能といえば,クォータ管理とファイル・スクリーン機能ぐらいしか見当たらなかった。Active Directoryフェデレーション・サービスや分散ファイル・システムも魅力的だが,導入にはネットワークや既存サーバーの大幅な変更が必要になる。この場合は,サーバーOSを新規導入するコストは大したことがなくなり,SA/EAを選択するメリットが薄れてしまう。

 R2の登場は,SA/EAを選択するか否かで,ユーザーをますます悩ますことになりそうだ。

坂口 裕一=日経Windowsプロ