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録画機器に魅力を加えるのはメーカーの責任

正念場のデジタルテレビ放送(1)

2005/11/18

 ハイビジョン映像をそのままの画質で録画できるハード・ディスク(HDD)内蔵型レコーダに注目が集まっている。しかし,内蔵HDDに録画できる容量が限られているうえ,その人にとって貴重と思える番組を別の安全な場所に退避して保管したくても,「一回だけコピー可能(コピーワンス)」の制限により,痛い目に遭うユーザーが後を絶たない。

1テラあっても問題は解決せず

 まず,問題を整理しよう。

 最近のハード・ディスク・レコーダの進化は目覚ましい。ほんの数カ月前まで,容量が180ギガ・バイト,ハイビジョン画質で最大約16時間程度の録画時間だったものが,あれよあれよという間に巨大化。この10月には1テラ・バイトのハード・ディスクを搭載し,約128時間もの番組を録り貯められる機種も登場した。

 これだけあれば,通常の利用形態なら好きなだけ撮って見たら捨てる,といった使い方で何の不便もない。しかし,たまにはその人にとってどうしても捨てられない番組に出会うことがある。たとえば,「自分が出演した番組」,「生まれ故郷の風情を記録した番組」,「恋人と見た大好きな映画」などだ。

 さて,そんな番組をこれらの機器に当たり前のように付属しているDVDレコーダに移そうとすると,こんなはずではなかったのに,と思えるいくつもの問題に遭遇する。1回限りのコピー制限のせいで,ハード・ディスク内部の番組は消されてしまう。これがムーブと言われる仕組みだ。これはルール上仕方がないと100歩譲るとしよう。DVDに移された番組はせっかくのハイビジョン映像画質ではなくなり,ボケボケの画面となる。映し出す機器が20インチ程度の画面ならそれほど気にならないが,40インチを超える薄型テレビや100インチ・クラスのプロジェクタなどでは,本当に見るも無残な映像となる。

 しかも,番組に合わせて裏側で同時配信されているデジタル文字情報はなくなり,2カ国語放送は視聴時の音声に固定され,日本語字幕はきれいさっぱりなくなってしまう。せっかく大枚をはたいてデジタル放送対応機器を購入したのに,これは一体何なのかと思わせる。たまにもっと悲惨なことも起こる。DVD-Rなどの品質にムラがあったり,ゴミがついていたなどでムーブが正常に行われないこともある。ダビングしたDVDは途中までしか再生できないうえに,元になったHDDレコーダ上の番組は消し去られてしまい,もう2度と取り戻せないのだ。

 結局,1テラ・バイトあっても,いざというときに取り返しのつかない事態を招いてしまうことがある。

 また,機種を大容量の上位機種に買い替えた場合なども不便をかこつ。1年前の160ギガ・バイト製品の価格は,今の1テラ・バイト製品より高かったりする。旧機種が手狭になったら,適当なときに十分な容量を持つ機種に買い替えれば良い。しかし,前機種に取り残した貴重な番組を新しい機械に持ってこようとしても,機器同士をつないでムーブすることができないのだ。

 本当に貴重に思える番組を保存するのに,D-VHSテープを使うという手もある。しかし,これもムーブの途中で失敗したという報告が多数あるというし,いったんテープに持ち出した番組はハード・ディスク・レコーダに書き戻せない。

デジタル放送の運用規定が古すぎる

 HDDレコーダには通常,IEEE 1394の端子が付いている。これを経由して,他のデジタル放送機器と接続する仕組みだ。いったんHDDレコーダに録画した映像は,D-VHSなどに対して書き出しの操作ができるようになっている。しかし,なぜ,HDDレコーダ同士でムーブするといったことができないのだろうか? 

 アイ・オー・データ機器が発売しているHDDレコーダRec-POT Fなどでは,それ自身をD-VHSのごとく見せかけ,他のHDDレコーダから番組をムーブしてくることができる。しかし,それはあくまでもRec-POTがD-VHSと同じ振る舞いをしている間だけで,いったんRec-POTに移した番組は元のHDDレコーダにムーブし戻すことができない。

 技術的に「ムーブし戻す」ことはできるはずと容易に想像できるが,実はメーカーは,ARIB(電波産業会)が出版したデジタル放送受信機のあるべき姿を規定した運用規定にのっとって,できる機能をつぶして製品化している。

 たとえば,地上デジタル放送の運用規定である「ARIB TR-B14」にこのような主旨の規定がある。

 「ムーブ終了後に,使用可能なコンテンツがムーブ元及びムーブ先の双方に同時に残ってはならない」「ムーブ動作の途中において,ムーブ元及びムーブ先の双方に同時に1分を超える長さのコンテンツが再生可能な状態であってはならない」。

 この文言はコンテンツをデジタルで保存する「ノンリニア」な世界にはなじまない表現だ。録画が常にテープで行われるという時代にはこの表現で良かったのかも知れないが,デジタル・データの塊になった今の時代にはなじまない。

 たとえば,デジタル・データをAの機器からBの機器に移すにはこんな方法が考えられる。移動動作前にAのコンテンツをユーザーから見えない状態にする。もちろん,この状態からハックして元に復元できないよう,強固な仕掛けが必要だ。この状態でBにバースト転送する。両者が完全に同一状態で移動できたことを確認し,Bのコンテンツをユーザーからアクセス可能にする。言わずもがなだが,アクセス可能になったあとでも,その機器上でしか再生できないよう強固な暗号化を施す---といった方法だ。

 この方法であれば,今なら長時間かかるムーブが10分の1程度の時間でできるようになるし,ムーブの失敗もなくなるだろう。また,この操作により,コンテンツのトータル・コピー数が増えるわけではないから,「一回だけコピー可能」の制限のもとで,何回でも書き戻しや機器の移動ができる。将来,ネットワーク越しにコンテンツの保存ができるホーム・サーバーが一般化する時代になっても,対応できそうだ。さらに,そのホーム・サーバーの容量を増やしたい場合でも問題なく大容量機に移行できる。

 ARIBが出版している運用規則は,放送業界や機器メーカーが意見を交換しながら一定の取り決めを行い,編み出したものだ。しかし,多くの団体が意見を交換するため,技術の急激な進展に議論が追いついていない。いまだに,デジタル・ハイビジョン・コンテンツの録画装置はD-VHSであるとの前提に条文が組み立てられている。

メーカーはもっとアイデアをぶつけて

 ARIBの運用規則策定に大きな影響力を持つBSデジタル放送推進協会(BPA)や地上デジタル放送推進協会(D-pa)の委員は,「コピーワンスを強硬に主張するあまり,HDDレコーダなどの使い勝手が悪くなっている。そのため,普及の足かせになっているとの批判が放送業界を直撃してくるが,それは大きな誤解だ」とする。

 「確かに,ARIBの規定にはテープ時代の名残を感じさせる規定が存在するが,D-VHSを前提に機器を作ってほしいなどと言っているわけではない」と強調する。D-paの委員でもあるフジテレビジョン デジタル技術推進室の関祥行技師長は「コンテンツのコピーがまん延しないということを担保してくれさえすれば,どんな形式であってもいい」と言う(11月18日に“型式”から“形式”に修正)。ネットワーク越しのムーブ,HDDレコーダ同士のムーブ,そういう機器はいくらでも作ってもらっていい,「逆に歓迎もしたい」。

 これまで,ともすれば放送業界を刺激したくないというメーカーの遠慮が,結果的にユーザーに不便を強いる機器設計を形作っていた。上記のように「何度でもムーブ可能。同一コンテンツはいつでも一つだけ」という簡単なルールさえ業界共通で作れるなら,ユーザーは安心して現在手に入る現行機種を購入できるようになる。

 メーカーの機器設計企画者はARIBの規定にとらわれず,もっともっと自由に発想していいのだ。

コピー可能回数緩和か,バックアップ無限にするか

 コピー回数制限を緩和して複数回にという議論も一部ではあるようだ。しかし,そのような変更では現行機種が全滅する可能性がある。また,たとえばコピー可能回数を5回までとしたなら,1台の親機から5枚のコンテンツが流出していくことになる。ラックマウントに埋め込んだチューナを100台用意して,大量に複製物を作るというヤカラも出てこないとも限らない。

 やはり,自由にバックアップが取れる,しかし,再生できるのは1個だけという考え方がこれからの家庭内ネットワークの進展とも親和性が高く,しかも業界やユーザーなど各方面が丸く収まる落とし所だと思えるのだが,いかがなものだろうか?

 2011年にアナログ放送停波のスケジュールで事態は進んでいる。今まさに,この種の重大な決断をするべき正念場を迎えている。

(林 伸夫=編集委員室)

【IT Pro編集から】続編に当たる記事を作成した都合から,タイトルとサブタイトルを入れ替えました(2005年12月16日)。

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