企業の情報システム担当者にとって,社内の情報集約が大きな課題に浮上しつつある。背景には,不正会計の防止を狙った日本版SOX(サーベンス・オクスリー)法が2008年3月期にも施行されると見込まれていることがある。企業はそれまでに,財務諸表の正当性を証明するあらゆる情報を,監査の求めに応じて即座に引き出せる体制を整えておかなければならない。現実的な対応としては,社員のパソコンや部門のサーバー,基幹システムに分散するデータを集約しておけば確実だと言えよう。

 データ集約の解決策の一つが「ストレージ・セントレック」。社内に分散する情報をセンター拠点に設置した一つのストレージ・システム内に集約することで,情報の管理を徹底できる。しかし,実際の導入は一筋縄にはいかない。集約対象となるシステムによっては,WAN回線のボトルネックが避けられないことがあるからだ。

WAN越しのファイル・アクセスはレスポンスが低下

 例えばファイル・サーバーの集約。東芝は現在,社内に分散する数千台のサーバーの段階的な集約を進めている。対象となるサーバーは全体の30~40%だが,この中にファイル・サーバーは含まれない。理由は,WAN越しにファイル・サーバーにアクセスした場合,レスポンスが低下して実用に耐えられないと考えたからだ。

 レスポンス低下は,(1)ネットワークでは伝送遅延が発生すること,(2)ファイル共有プロトコルが非効率であること---の2つの原因が積み重なることで顕著になる。根本的な解決を図るには,伝送遅延をほぼゼロに抑えた超高速バックボーンを構築するほか手はない。

 そこで,ユーザー企業が打ち出せる当面の策として注目を集めている製品が「WAN高速化装置」だ。同装置は,ユーザー拠点とセンター拠点をつなぐWAN回線の両端に設置する専用機。ファイル・サーバーのデータの一部をキャッシュすると同時に,対向する2台のWAN高速化装置が連携することで,ファイル共有プロトコルの非効率さを解消する。

 特定のアプリケーション・サーバーの集約なら,アプリケーションが持つ機能を活用することで解決できることもある。東芝は,米IBMのグループウエア「ノーツ/ドミノ」のサーバーについては集約を図った。クライアントのバージョンをR6に上げることで,圧縮送信の機能を利用できたからだ。

データ集約も,まずはコスト削減ありき

 解決策があるとは言え,WAN高速化装置は十分なキャッシュ容量を備えた製品だと本体価格だけで1台当たり100万円以上と高価だ。アプリケーションで解決するにしても,場合によってはバージョン・アップに伴うライセンス費用などがかかる。新たにサーバーやストレージ装置を導入するだけでもコストがかるのに,その上さらにWAN回線のボトルネックを補うためのコストがかかるとなると,ストレージ・セントレックの実現には二の足を踏んでしまうだろう。

 しかし,ストレージ・セントレックはデータを集約することで情報管理にかかるコスト削減効果をも生み出す。東芝は集約の結果,3割のコスト削減を見込んでいる。SIベンダーが提供するストレージ・セントレック向けソリューションも,まずはコスト削減ありき。例えばNECの「プラットフォーム最適化ソリューション」では,ネットワーク,サーバー,ストレージを同時に見直すことで,回線費用や運用費用などを合算して2割以上のコスト削減効果が得られる内容での提案を基本としている。

 「法制度から迫られて」という点で,企業の情報システム担当者からは「個人情報保護法の対策が済んだと思ったら,次は日本版SOX法か」とため息も聞こえてくる。しかし,個人情報保護法の備えとなった情報漏えい対策は,対策を打ったところでコスト削減効果は見込めなかった。個人情報保護法への備えでは,情報をどう守るかという「セキュリティの強化」に力点がおかれていたからだ。

 日本版SOX法の備えは,「どのデータが,どこに保管されているのか」と言うデータの所在を正確に把握することが狙い。それを確実に解決するストレージ・セントレックを実現することは,同時にコスト削減も見込める一石二鳥の対策と言える。企業の情報システム担当者は,単に法制度への対処,つまり「守り」としてではなく,コスト削減まで踏み込んだ対策を立てて「攻める」好機ととらえるべきかもしれない。

加藤 慶信=日経コミュニケーション