日経情報ストラテジーの12月号で,総力特集「日本の現場力」を担当した。この特集で,キヤノン,全日空,アスクル,コカ・コーラナショナルビバレッジ,永谷園,松屋の6社を取材し,各社の現場改革を推進している6人の現場リーダーに密着した。

 6人の現場リーダーが取り組んでいる改革の内容は様々。生産改革,接客向上,SCM(サプライチェーン・マネジメント)による在庫や欠品の削減,ポイント・カードとデータ・ウエアハウスを活用した顧客分析と,多岐にわたる。

 とはいえ,現場リーダーに求められる条件に相違はない。どんな改革であっても,現場リーダーに必要な資質には共通なものがある。ここでは,そのエッセンスを紹介しよう。

6社から,6つの資質が見えた!

 6人の現場リーダーの取材から導かれた「現場リーダーの条件」は,次の6つである。

(1)部下に光を当てる(照明力)
(2)現場の目線に立つ(投影力)
(3)社内の常識を否定(異質力)
(4)常に変わらぬ信念(一貫力)
(5)自分で聞いて回る(歩行力)
(6)演じる場を与える(舞台力)

 日経情報ストラテジーはこれら6つの条件をそれぞれ,「照明力」「投影力」「異質力」「一貫力」「歩行力」「舞台力」と呼ぶことにした。1つずつ,簡単に説明していこう。

 キヤノンでセル生産を指揮する石井裕士・映像事務機取手工場長は,社内で普段あまり光が当たらない工場の作業員に「光を当てる」ことが自分の役割だと言い切る。工場長が頻繁に生産現場に出向き,作業員に声をかけ,良くなった点を指摘してホメる。これが「照明力」である。こうした地道な活動がキヤノンの生産革新を成功に導き,これまでの7年間で合計3000億円以上のコスト削減に貢献した。

 全日空はキャビン・アテンダント(客室乗務員)出身の山内純子・執行役員客室本部長が,自身のフライト経験を存分に生かし,「(自己)投影力」を発揮している。管理職の立場になっても,合計4000人いる客室乗務員の心理を自らに投影し,意思決定を下すように心がけている。山内執行役員は常に「管理職にとって部下はお客様」と考えている。

 中小企業向けの文具配送で急成長したアスクルには,手つかずだった大企業の攻略で「異質力」を発揮した男がいた。小河原茂プロキュアメント・ソリューション執行役員は,一見,中小企業に特化したアスクルのビジネスとは矛盾する大企業向けの文具の購買代行サービスを提案。当初,社内では完全に異質と思われた大企業向けのビジネスを自力で成功させた。今では大企業と中堅企業だけで3500社の顧客を抱えるに至っている。彼の異質さを社内で唯一支持したのが,アスクル社長の岩田彰一郎氏だった。

 日本全国にまたがるコカ・コーラグループのSCMを1つに統合し,集約効果で年間250億円ものコスト削減を提案したコカコーラナショナルビバレッジ(CCNBC)のギー・ウォラート社長。彼は,全国のボトラーや,SCMの統合のために設立された新会社CCNBCに集まった社員に,一貫して同じメッセージを発し続け,当初ほとんどの社員が懐疑的だったSCMの統合を見事成し遂げた。現場リーダーのブレない信念こそが「一貫力」である。英語と日本語の言葉の壁を越え,ウォラート社長は現場とコミュニケーションを取り続けた。

 欠品をピーク時よりも約90%引き下げた永谷園の永谷喜一郎執行役員情報システム部長兼統合計画部長は,とにかく現場を歩き回る。それが彼の「歩行力」である。注文があった商品の欠品を激減させるために立案したSCMシステムの導入には,当初工場や営業からの反発があったのも事実。反発があるたびに,永谷執行役員は現場に出向き,説明や説得を繰り返した。全国各地に散らばる工場や営業拠点を歩き回った距離は計り知れない。

 デパートの売り場で会員カードを持つ顧客の分析を任された合計46人の社員に,データ・ウエアハウスを駆使した顧客データの分析手法を手ほどきし,活躍できる場をお膳立てしたのが松屋の所吉彦・営業企画部カード政策課課長。所課長は各売り場の責任者に掛け合い,担当者がデータ分析して発案したダイレクト・メールの発送などを極力認めてもらえるように説いて回った。現場が自由に動き回れる舞台を用意してあげるのが「舞台力」である。

 これら6つの資質を,皆さんはお持ちだろうか。

川又 英紀=日経情報ストラテジー