Big Wave。

 9月13日から16日までの4日間、米ロサンゼルスで開催された米マイクロソフトの開発者向け会議PDC05の基調講演。ビル・ゲイツ会長は、世界各国から集まった開発者に向けて、「来年はプラットフォーム環境の大変革=Big Wave(大波)が押し寄せる」と、何度も繰り返した(関連記事)。

 もっとも、その言葉は、開発者のみならず、ゲイツ氏が自らを鼓舞する意味でも発せられたのかもしれない。最初のWindowsである「Windows 1.0」の登場から20周年を迎えた今年、マイクロソフトは大きな転換期を迎えているからだ。同社は今、3つの課題に直面している。

 1つ目の課題は、いわば「グーグル対抗」だ。グーグルはWeb検索にとどまらず、デスクトップ検索、地図サービス、メッセンジャーなど、新手の無料サービスを矢継ぎ早に繰り出し、従来のマイクロソフトのビジネス領域であるソフトウエア分野にも侵攻中だ。マイクロソフトにとって、新興のWeb企業への対抗策は急務だ。

 2つ目は「オープン規格への対抗」。政府などの組織ではWindowsやOfficeなど「仕様が公開されていないものは採用できない」というスタンスを表明するところも少なくない。こうした政府サイドの主張を後ろ盾に、LinuxやPDFなどオープンソース/規格の浸透を図る陣営への対抗策である。

 3つ目は「企業システムの新アプリケーション提案」だ。企業内での普及が一巡して頭打ち感のある従来のOffice製品や、従来のサーバー製品の枠を超えた魅力ある企業プラットフォームを提案することは、同社の売り上げに直結する喫緊の課題である。

 これらを実現するために、「メーカーや事業者を巻き込み、次世代技術・Windowsプラットフォームに対応してもらえるか」。これが、マイクロソフトが今後もIT業界に君臨できるかどうかの分かれ目になる。

対策の鍵握る「XML」はVista世代の中核技術

 マイクロソフトにとって、こうした課題を解決する鍵になるのが「XML」だ。同社はWindows Vistaなど次世代製品の中核にXMLを据える。

 実際、同社が明らかにしている次世代製品では、あらゆるところにXMLが利用される。

 例えばWindows Vistaのデスクトップ画面右手には「Sidebar」と呼ばれるスペースが設けられ、「検索」や「RSSリーダーの小窓」など、ここにはインターネットとリアルタイムで通信できるツール(Gadgets)を組み込むことができる。このツールを構成するのもXMLだ。

 また、Windows Vista世代のデジタル文書/印刷スプール形式「XPS(XML Paper Specification)」。PDF対抗のファイル形式と位置付けられるXPSは、その名の通り、コンテンツの構成をXMLで記述し、サムネイルやフォント、画像などをZip形式でまとめたコンテイナー(入れ物)を1つのファイルして扱う。

 次世代オフィス製品「Office 12」(開発コード名)でも、標準ファイル形式は、XMLベースの「Open XML Format」になることが決定済みだ。つまり、標準のファイル形式はWordが「.docx」に、Excelが「.xlsx」、PowerPointが「.pptx」になる。従来のOfficeの.docや.xls、.pptと互換性はなくなるが、相互に変換するためのツールが提供される見込みである。ちなみに、Office 12の.docxや.xlsx、.pptxのファイルも実は、XPS同様、各要素が、Zip形式のコンテイナーにまとめられる。

 XMLの採用はもはや自然の流れである。XMLは、定義付けされたデータをさまざまなプラットフォーム間で交換でき、今や多くのクライアント、サーバーシステムで標準的に採用されるようになっているからだ。実際、例えばOffice製品でも、既に「Office 2000」から徐々にXMLの採用が始まっていた。

 しかし、オープンなXMLフォーマットの採用を推し進めることにはリスクもある。同社がファイル形式を公開するとすれば、その仕様を基に100%のデータ互換性を持つ他社製の格安オフィスソフトが出てこないとも限らず、マイクロソフトが持っていたOffice製品の圧倒的なシェアが一気に下がる可能性もある。

 そうでなくとも、Office 12では標準ファイル形式を変更するという、根本的な仕様変更を行うことになる。新旧のファイル形式間でレイアウトがきちんと再現されるのか、また文書中のプログラムとも言えるマクロには互換性があるのかなど、同社には今後、ユーザーの疑問や要望にきちんと応えていく責任がある。