デジタルカメラの開発競争が熾烈を極めている。「小さく軽く」に対し「超高精細・高機能」への二つの両極への進化が渾然一体となって消費者ニーズに応えようと必死だ。しかし,その結果,組込まれた機能に極端なアンバランスが生まれ始めている。撮影解像度が800万画素に届くカメラに20万画素程度のEVF(Electoronic View Finder,電子ビューファインダー)を搭載する機種も世にはたくさん存在する。

高精細画像を手探りで撮影

 800万画素もあれば左右1メートル,つまりB全判サイズ(728×1030mm)といわれる大きな紙に引き延ばし印刷しても十分美しい写真が楽しめるほどだ。ピントがしっかり来ている花のクローズアップ写真など,実際にプリントショップで印刷してごらんになると良い。花粉が飛び散る様子まで写り込み,それはそれは美しい作品が仕上がる。

 しかし,そんな素晴らしい「基礎体力」を持ったカメラでも,そこまで美しい映像を撮影するのはなかなか難しい。小型の液晶パネルを使ったEVFが,カメラ自身が持っている性能をうまく引き出すまでの力を持っていないからだ。考えるまでもない。800万画素の映像を20万画素に映し出せば,当然ディテールは吹き飛んでしまう。ピントが合っているか合っていないか,定かに映し出してくれないからだ。

 メーカーは当然,小さな液晶画面でもピントを合わせやすいように,さまざまな工夫を凝らしている。ピント合わせ中には部分的に拡大画像を表示するとか,ピントが合った部分の映像にエッジを利かせてくっきり見せるなどさまざまな工夫をしているが,これをうまく使いこなすにはかなりの修業を積まなければならない。

 撮影解像度が100万や200万画素のころならそれなりの使い勝手を実現できたEVFも,本体側の性能がぐんぐん上がってくるとアンバランスが目立ってきた。

デジタル一眼レフが求められるわけ

 これを解決する今実現可能な方法は光学式のファインダーを装備すること,すなわちデジタル一眼レフカメラである。デジタル一眼レフは撮影しようとする画像をミラーで横取りし,別系統の映像表示をする仕組みだ。

 解像度は事実上無限大。当然,撮影しようとする映像はきめ細かく表示され,マグニファイア(拡大レンズ)などをファインダに取り付ければ,微細なピント合わせもできる。

 高級マニアはこの性能と使い勝手を求めて,価格は高くなるものの,デジタル一眼レフカメラを追い求める。レンズ交換もでき,ボケ足なども写る通りの状態を確認でき,テクニックをフルに発揮することもできる。

 しかし,デジタル一眼レフカメラは「デジタルカメラ」が持てるはずのメリットを生かしていないことが数多い。

デジタル一眼レフが過去の呪縛から抜け出ていないこと

 現在のデジタル一眼レフカメラは,従来の一眼レフカメラのフィルム部分をデジタル受光素子に置き換えただけ,の存在から抜け出していない。

 もちろん,撮影データを無線LANやFireWire(IEEE 1394)などで高速に転送できる,その場で撮影画像を確認できるから失敗作は何度でも再チャレンジできる,大容量メディアを使えば,何100枚も撮影可能といったデジタルならではのメリットはある。しかし,デジタルならもっともっといろんな遊びが盛り込める。

 デジタル一眼レフをデジタル機器として見たときに物足りなさを感じさせるのは,撮影中のホワイトバランスの確認ができない,シャッターを押した状態で撮影画像の確認ができない。動画撮影ができない。さらに,ミラーやその跳ね上げ機構,ファインダーへの結像のためのプリズムなどのせいで,カメラ自体が大きく重くなる,といった点だ。

高精細EVFの登場が待たれる

 こうして考えてくると,レンズ交換でき,光学ファインダーと同等の表示ができる高精細のEVFを搭載した,新世代デジタル一眼レフカメラの登場が待ち遠しい。800万画素の撮影映像を細部まで確認するためにどの程度の解像度が必要かは,さまざまな議論があると聞く。最低でも100万画素,できれば200万画素程度が必要だという。これだけの解像度の小型液晶パネルのコストが大きな問題で,しばらくはメカニカル型式のデジタル一眼レフにはかなわないという。

 しかし,撮影解像度とEVFの両者のバランスが取れてくれば,実に面白い「デジタル一眼レフ」カメラが誕生することだろう。まず,何と言っても,期待できるのは小形軽量化。従来のデジタル一眼レフと比べ物にならないほどの軽さが実現できそうだ。

 撮影画像そのものをモニターできるから,夜景や薄曇りの中での絵造りが楽しめる。大型モニターで映像確認できる外部HDTV出力機能なども付加できる。

 メーカーによってはEVFの取り外しのできる機種も開発するかも知れない。そうなると,顕微鏡写真や,超クローズアップ撮影などに面白いスタイルを提案できるだろう。

 さて,どこがこの競争に一番乗りするか,大いに楽しみだ。

(林 伸夫=編集委員室 編集委員)