年齢のことを持ち出すのが,いいかどうか分からないが,岩崎氏は大正生まれである。同じく数週間前,もう一人の大正生まれの方に会った。JRのみどりの窓口で使われているオンライン・システムの原型となった「MARS105」のプロジェクトリーダーを務めた尾関雅則氏である。尾関氏は「システム・インテグレーションはヒューマン・インテグレーション」など,いくつも名言を残している。

プロジェクトを大勢でやっていると,ソフトウエア開発者の何人かが行き詰まって前に進めなくなる。顔色を見ていて,時には「しばらく来なくていい。酒を飲むなり,ゴルフをするなり好きなことをしてこい」と言うようにしていた。気分転換をさせると,「分かりました!」と言いながら戻ってきて,あっという間にコーディングし,遅れを取り戻す,ということがあった。

 この発言を聞いてどうして元気が出るのか,と問う人がいるかもしれないが,筆者が感銘を受けたのは,尾関氏が35年前の開発プロジェクトの光景,チームメンバーとのやりとりを鮮明に記憶していて,それを生き生きと語ってくれた点にある。岩崎氏や尾関氏のような方々に会った直後は,「仕事をしている以上,可能なら一世一代の大仕事をやってのけてみたい」と思った。ただしそう思ったのは取材の直後だけである。

CEO(最高経営責任者)になったときに経営書をいくつか読んだが,派手なセレブリティ型のCEOをわたしは演じることはできない。わたしができるのは,ダウ社員のために働くことである。

 ダウとは,石油化学最大手のザ・ダウ・ケミカル・カンパニーのことである。この発言は,社長兼CEO(最高経営責任者)のアンドリュー・リバリス氏によるもの。リバリス氏は2004年11月からダウのCEOを務めている。先般,記者会見があったが,圧倒的なスピーチであったので,それを記事にまとめ,日経ビズテックの第8号に掲載した。どう圧倒的であったかというと,質問が出る限り,答え続けたことだ。結局,1時間を予定していた会見時間は2時間近くまで伸びた。長年,記者をしているが,こういう会見は珍しい。

 世界的な大企業のCEOに「社員のために働く」などと言われると,かなり気持ちが悪い。少なくとも筆者はそうである。しかしリバリス氏は,堂々とこう言った。確かにこの手の発言は胸を張って言ってもらわないと,聞いているほうが困ってしまう。

 ちなみにCEOに就任して彼が最初に取り組んだのは,白紙を広げ,ダウの今後の組織をどのようにすべきか,書き出すことであった。そして,各組織の責任者も,文字通り白紙から考えて決め,大異動を断行したそうだ。リバリス氏が経営者として成功するかどうかは分からないが,少なくとも記者会見から,「白紙からすべてを描く」リーダーシップが伝わってきた。

自己責任とは,他人に頼らず自分で決断でき,他人のせいにせず結果を受け入れることができるという意味でしょう。残念ながら,これができる人は少ない。

 これは,ある読者から送られた電子メールから採った言葉である。筆者はこの方に会ったことがない。どのような仕事をされているのか,背景も知らない。しかし指揮官だけではなく全員がリーダーシップを持たないといけない,という主張に共感したので紹介する次第である。

 この方は,例の西暦2007年問題についてもコメントされていた。「他人に頼らず自分で決断」という考えを貫いていけば,「技術の継承問題」について別の見方ができるというのである。そのコメントは,筆者が発行しているメールマガジン「技術経営メール」の中で紹介した。

 なぜか,このメールマガジンに対応したWebサイトはまだない。このため,バックナンバーを見ることはできない。そこで,そのメールに掲載した,技術伝承に関する彼の意見を再掲する。

なぜ他人の技術に頼らなければならないのでしょう。自分で技術を磨けばいいのではないでしょうか。現在技術を持っている方は,どのようにして身につけたのでしょう。特にコンピュータ関係はそれまでになかった技術です。誰からも教えてもらうことができなかった技術が多いと思います。この数十年の間に『自分で苦労して身につける』という気持ちがなくなった,これは確かです。

 最後に唐突だが,日経ビズテック編集長の仲森が送ってきたメールにあった言葉を引用する。彼がかつて,「うっとりした」言葉だそうである。前田利益(慶次郎,無苦庵)という人が晩年に書いた日記の末尾にある言葉という。

そもそも此の無苦庵は孝を謹むべき親もなければ憐むべき子も無し,
心は墨に染ねども,髪結がむつかしさに頭(ツムリ)を剃り,
足の駕籠かき小者雇はず,
七年の病なければ三年の灸(モグサ)も不用,
雲無心にしてくきを出づるも亦可笑し,
詩歌に心なければ月花も苦ならず,
寝たき時は昼も寝、起きたき時は夜も起きる。
九品の蓮台に至らんと思ふ欲心なければ八万地獄に落る罪もなし,
生きるだけ生きたらば死ぬるでもあらうかとおもふ

 IT Proの井上編集長に原稿を送信する前,再度読み返したところ,今回の発言者は皆,ベテランの方々であることに気付いた。要するに,筆者は最近,若い人に会っていないのである。可能なら次回は,元気のよい若手の言葉を紹介したい。