写真●日本ユーザビリティ医療情報化推進協議会理事長の森田朗氏
写真●日本ユーザビリティ医療情報化推進協議会理事長の森田朗氏
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 日本ユーザビリティ医療情報化推進協議会(JUMP)は、7月9日都内で記者会見を開き、これまでの活動報告と政府などに対する提言、これからの活動方針について解説した。

 2014年度に31兆円と過去最高を記録するなど、医療費を含む社会保障費の削減は、喫緊の課題となっている。同協議会理事長の森田朗氏(国立社会保障・人口問題研究所所長、中央社会保険医療協議会会長)は、これを解決するための政策として、以下の三つを提言した(写真)。

(1)個々の施設を超えて情報を活用可能とするための標準化推進
(2)性格の情報の主体を識別子連携するためのマイナンバー(医療用連携符号)の導入
(3)情報の利活用を強化するためのプライバシー保護法制の確立

 加えて、これらの政策導入で期待される効果として、下記の項目を挙げた。

 まず、健康・医療情報大規模データベースを活用した医療安全の徹底。電子お薬手帳などによる75歳以上の高齢者の薬の飲み残し削減(推定年475億円)、重複投薬の適正化(年間1400万件、院外処方の2~3%)、創薬・治験での被験者選出の際の精度向上と最適化(1治験当たり5~15億円)、創薬の成功率の向上などで、大幅なコストの削減が見込める。

 次は、医療トレーサビリティの確立による患者の安全安心の向上。医療機器だけでなく医薬品のトレーサビリティを実現できれば、医療過誤防止に加えて医療事務経費削減が見込める。「例えばトルコでは、偽薬対策などの目的もあって、錠剤1個単位でのトレーサビリティが実現している。日本では、点滴や注射の薬品にはバーコードが付与されるようになっているが、飲み薬には未実施。薬品メーカーの協力を仰ぎながら、推進していきたい。職員がスマートフォンでバーコードを確認できるようにすれば、病院側も経費を抑えられる」(落合慈之同協会医療トレーサビリティ推進PJ委員長、NTT東日本関東病院名誉院長)。

 さらに、マイナンバー(または、医療用連携符号)導入による効果。一つは、個人向けの健康ポータルを通じて健康診断データに基づいた健康管理を促すことで、疾患に苦しむ患者の減少と医療費の削減を狙う。「人工透析患者を20%減らせれば、年間350億円の医療費を削減できる」(千葉光行同協議会理事、健康都市活動支援機構理事長、前千葉県市川市長)。

 もう一つは、医療保険のリアルタイム資格確認を実現し、病院側の請求不能などを減らすもの。現在は、以前勤務していた企業などが発行した保険証で請求されたケースなどでは、1~3か月後に審査機関から病院へ戻され、当該患者に病院側で確認できた場合に再度請求できる仕組み。連絡が取れないケースなどでは、そのまま不払いとなってしまうことも多い。同協議会は、マイナンバー導入でこうしたケースが減少すれば、作業負担の軽減や不払いの減少などで年間約256億円の経済効果があるという試算を紹介した。

 同協議会委員で医療情報システム開発センター理事長、東京大学特任准教授の山本隆一氏は「特に医療へのマイナンバー導入には、大きな期待をしている。現在2万4000種類の病名があるが、これを全て網羅しなくても、がんやうつ病、糖尿病などの生活習慣病など、数百種類のデータを集めただけでも大きな効果が見込める」と主張した。