写真1●講演する高木浩光・産業技術総合研究所主任研究員
写真1●講演する高木浩光・産業技術総合研究所主任研究員
[画像のクリックで拡大表示]
写真2●崎村夏彦・OpenIDファウンデーション理事長の司会で活発な討議がされた
写真2●崎村夏彦・OpenIDファウンデーション理事長の司会で活発な討議がされた
[画像のクリックで拡大表示]

 OpenIDファウンデーション・ジャパンは2014年7月7日、「個人情報保護法改正とパーソナルデータ活用」をテーマにセミナーを開いた。高木浩光・産業技術総合研究所主任研究員は、政府のIT総合戦略本部が公表したパーソナルデータ法改正の大綱について「必要のない規制がかかる一方、本来保護するべき情報には規制がかからないという状況になりかねない」と指摘した。

 大綱によると、本人同意なく外部に提供できる「特定の個人が識別される可能性を低減したデータ」(個人特定性低減データ)は、データの受領者に個人識別の禁止といった義務が課せられる。だが高木氏は、同じデータでも義務が変わる「ねじれ現象」があると述べた。

 例えば交通系ICカード「Suica」の乗降履歴を外部に提供するには、「無記名Suica」から履歴データのみを扱う場合は法的義務がかからない。ところが、記名式Suicaのデータから氏名・生年月日・連絡先情報を削除して履歴データのみを抽出した個人特定性低減データの受領者には義務がかかるという。

 具体的に問題となる例として、高木氏は商品の販売記録のデータを挙げた。顧客が同時に購入した商品のデータなどは現行法でも問題なく活用されているものの、元データが内部で個人情報にひも付いていると個人特定性低減データに該当して規制が強化されてしまうと指摘。プライバシー保護を求める立場からは不要な規制という。

 技術検討ワーキンググループ(WG)の報告書では、個人特定性低減データへの最低限の加工方法は定義できず汎用的な基準もないとしている。だが高木氏は「十分に低減したデータ」の基準が議論されていないとして、「これさえやればよいと明確になれば産業界は困らないのではないか。そもそも低減データなる概念はいらないのではないかさえ思う」と述べた。

 また大綱には、経済産業省の提案でデータの利用目的を変更する場合にオプトアウト(利用停止)の手段を提供すれば可能とする案が盛り込まれた。これに高木氏は「サービスの利用者が当初聞いた利用目的と違う扱いがされる恐れがあるとんでもない案」と批判。背景に、事業者単位で決めた利用目的の変更ができない企業の要望があるのではないかとした。

 高木氏は現行法でも解決できるとして、データの利用目的の表示を事業者単位ではなく、サービス単位で掲げるよう提案。新しいサービスに限った利用目的の表示や、利用目的の変更後のデータのみを使う方法があると述べた。

パブリックコメントを呼びかけ

 また鈴木正朝・新潟大学法学部教授は、Suicaの乗降履歴の提供は違法だと指摘。合法だとして擁護すると、「個人特定低減性データを導入する狙いの説明ができなくなる」と一部経済界の意見を批判した。