写真●シスコシステムズの平井康文社長(写真:井上裕康)
写真●シスコシステムズの平井康文社長(写真:井上裕康)
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 「イノベーションの源泉は社員であり、企業の変革においてツールやテクノロジーが主語になることはない。しかし、イノベーションを加速する『触媒』として、やはりそれらの活用は欠かせない」――。日経BP社が2014年7月2日から4日にかけて東京・品川プリンスホテルで開催中のイベント「IT Japan 2014」で、シスコシステムズの平井康文社長は「ビジネスイノベーションを加速する新たなワークスタイル」と題した講演を行った(写真)。

 講演の冒頭で平井社長が引用したのは、社員のその会社における働きがいや参画意欲などを表す「エンゲージメント」に関する米ギャラップの調査データである。それによると、最も高い国は米国で、次にオーストラリア、以下、英国、ドイツと続く。一方、最も低い国は中国で、残念ながら日本もかなり低く、たった7パーセントしかエンゲージメントを持っていないという。「データを見て驚いた。とても残念なことだ」(平井氏)。

 エンゲージメントをどうすれば高められるかについては、よく知られる12個の方法論があるとし、その中でも「職場で自分が何を期待されているか知っている」「いい仕事をしたことが認知される」「おめでとう、素晴らしいね、などの言葉をかけ合える」「仲のよい友人がいる」などが特に重要だという認識を示した。

 平井氏はさらに、エンゲージメントを高めるためには「企業は、ヒューマンリソースではなくヒューマンキャピタルという意味で、社員を人材ではなく“人財”ととらえ、そのために必要な組織作りに取り組む必要がある」と続けた。

個を集めて完全な全体調和を目指す組織

 「これまで私は『組織は野球型からサッカー型へ進化するべきだ』とずっと提唱してきた。野球は攻守が明確に入れ替わるいわば非同期型のスポーツ。一方サッカーは、広いピッチの中で11人の選手が縦横無尽に動き、ボールを取ったら攻める、取られたらすぐに守備という具合にダイナミズムとリアルタイム性がある。組織もそういう風に変革すべきだと言い続けてきた」(平井氏)

 「だが、最近サッカー型よりさらに進化させられる組織のモデルが世の中にあることに気付いた。それは『オーケストラ型』組織だ。オーケストラに所属する演奏家は、それぞれ自分が担当する楽器のパートしか演奏しない。しかし全体を合わせると見事なハーモニーになる。これこそが21世紀の知識社会における新しい組織の姿である」(平井氏)。

 平井氏はまた、カナダの著名な経営学者ヘンリー・ミンツバーグ氏の「経営はアートである」という言葉を借りつつ、「アートの世界に男女の区別はない。ミンツバーグの言う通り、経営がアートになればダイバーシティ(雇用の機会均等化や多様な働き方を指す言葉)はもっと推進できるのではないか」と語り、組織としてエンゲージメントと共にダイバーシティの推進にも、もっと取り組むべきだと主張した。

 「実際に、シスコではダイバーシティを高めるための人事プログラム、社員が生き生きと仕事できるためのさまざまな制度を整えている。自分たちの実力が社会でどういう位置付けにあるのだろうと常にベンチマークしている。チャレンジを重ね、時には失敗をしながらも取り組み続けた結果、最近はそういう取り組みを積極的にしている会社として、社会的にも高く認知・評価されるようになった」(平井氏)。

 在宅勤務やテレワークなど多様な働き方を社員に提供するワークスタイル変革も、そうしたオーケストラ型組織を実現するための取り組みの一環だと平井氏は語る。「社員はWindowsやMac、iPhone/iPad、Android端末などどんな端末をBYOD(Bring Your Own Device)や在宅勤務、リモートアクセス目的で使ってもOK。希望する社員にはモバイルルーターとビデオ機能付IP電話の貸し出しも実施している」(平井氏)という。

 同社が製品販売にも力を注ぐテレワークについては、「導入することで機動力と意思決定のスピードが比べ物にならないくらい上がる」(平井氏)といい、政府の会合などでもたびたび同社がテレワーク製品を貸し出して活用されている裏話などを披露した。