写真●野村総合研究所の谷川史郎理事長(写真:井上裕康)
写真●野村総合研究所の谷川史郎理事長(写真:井上裕康)
[画像のクリックで拡大表示]

 野村総合研究所の谷川史郎理事長は2014年7月2日、日経BP主催の「IT Japan 2014」で、「再点検・日本 日本の付加価値を高められるか?」と題する講演を行った(写真)。「日本は人口減少時代に突入した。その痛みを和らげるには、日本人が一人ひとりの付加価値を高め、経済を成長させることだ」(谷川氏)として、経済成長に向けた3つのポイントを挙げた。

 一つは、海外で日本文化へのあこがれを醸成し、日本の技術が通用するマーケットを育てることだ。

 例えば、日本では上水道技術を売り込む際、「蛇口から飲める水が出る」という性能だけを訴えても、海外では受注に結びつかないという。そもそも海外では、蛇口の水は飲まず、飲料用の水は別に買うのが当たり前だからだ。

 このため上水道技術を売るには、「蛇口の水を飲む」という日本のライフスタイル自体に共感してもらい、マーケットを育てる発想が必要になる。

 もう一つは、日本人の競争力を高める社会インフラの整備だ。

 谷川氏は、日本と欧米では「社会インフラ」への捉え方が大きく異なると語る。日本で施設などのハードウエアを指すことが多いのに対し、欧米では教育から公共サービスまで幅広い領域を指す。

 例えば日本と米国はいずれも、国民に等しく通信サービスを提供するユニバーサルサービス制度を持つ。だが、その基金の規模は、日本では年間150億円、米国では6000億円と大きな開きがある。その理由の一つに、米国では僻地の利用者に向けた費用補助のみならず、耳が不自由な人のためのリレーサービス、学校や図書館の情報化なども含んでいることがあるという。

 このほか、英国では2014年9月から、初等・中等教育(5歳~16歳)にプログラミング授業を導入。スイスやドイツも雇用維持・拡大へ教育プログラムを拡充している。

 一方、日本では小さな政府、自助努力の名目でこうした費用は抑えられており、社会インフラの分だけ欧米より不利な状況にある。谷川氏は「官と民の境界領域に見直しが必要では」と語った。

 最後の一つは、国内に付加価値が残る成長産業を見極めることだ。

 例えば頭脳労働というだけでは、必ずしも付加価値を国内に残せない。「今やインドのIT企業は、自動車のCAD設計などの業務をどんどん受託している。さらに、マーケティングデータ分析などのビッグデータ解析も手がけるようになっている」(谷川氏)。ビッグデータ分析の業務も、国内に残るかといえば「かなりクエスチョンだ」(谷川氏)。