文部科学省と米エネルギー省は2014年6月22日、ドイツで開催中の「ISC'14」の会場で、次世代スパコンにかかわるコンピュータ科学やソフトウエアの領域で日米が協調する協定(MOU)を交わした(写真1)。エクサスケール(1エクサFLOPS級)スパコンの実現に向け、OSやミドルウエアの仕様を共同開発することを目指す。
日米共同開発の狙いについて、米国側の開発責任者である米アルゴンヌ国立研究所 エクサスケール・テクノロジー・アンド・コンピューティング・インスティテュート ディレクターのピート・ベックマン氏に聞いた(写真2)。
Q.ソフトウエアの開発で日米が協調することの利点は。
A.日本と米国は、スパコン用のプロセッサを含むハードウエア全体を設計できる、ほとんど唯一の国だ。この領域では、日米は引き続き競争することになるだろう。
一方、エクサ級スパコンを制御するソフトウエアの開発では、日米が協調した方が高い成果が得られる。互いに共通のアプリケーションを使うことができ、より大きなエコシステムを形成できるからだ。
たとえTOP500のLINPACKベンチマークで1エクサFLOPSに一番乗りしても、それは必ずしも実アプリケーションで使いこなせることを意味しない。日米が協力してエクサ級スパコン向けソフトウエアを開発することで、エクサ級スパコンの活用で2、3年は先行できるだろう。
既に(日本側の開発責任者である)東京大学・理化学研究所の石川裕氏とは、複数の領域で協調している。今回のMOUの締結によってオフィシャルに連携でき、開発のスピードを速めることができるだろう。
Q.ソフトウエアのどのような領域で共同開発を目指すのか。
A.一つは、スパコンを構成する各ノードを制御するLinux Kernelの領域だ。ハードウエアの開発と合わせ、エクサ級スパコンのハードウエア制御に特化したOS「Linux Kernel for Exascale」を開発する必要があると考えている。
エクサ時代のOSに必要な機能の一つが、ノード間のメッセージ交換だ。
これまでアルゴンヌ国立研究所では、ノード間でデータを交換するための標準仕様「MPI」を開発、提供してきた。だがエクサスケールの時代には、MPIよりもローレベルでデータを高速に交換する仕様を開発する必要がある。
日米でメッセージ交換の仕様や実装を共通化すれば、日米のスパコンで同じアプリケーションを適用でき、市場が広がる。
もう一つは、スパコンを構成するノードを束ねて制御する「グローバルOS」の開発だ。現行のスパコンでは、各ノードがそれぞれ独立してOSを動かしているが、これに重ねる形で、グローバルOSがシステム全体の消費電力の最適化、故障対応、ノード間協調などを担うことになるだろう。