写真●ガートナー ジャパン リサーチ部門 日本統括 バイス プレジデントの山野井聡氏
写真●ガートナー ジャパン リサーチ部門 日本統括 バイス プレジデントの山野井聡氏
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 「システム導入の提案書と異なる仕様のシステムが納品されてしまった」。過去にそんな経験を持つITリーダーは実に50%にも達する――。

 こんなショッキングな調査結果が、2014年6月11日に開催された「ガートナー アウトソーシング&ITマネジメント サミット 2014」で報告された。ガートナー ジャパン リサーチ部門 日本統括 バイス プレジデントの山野井聡氏が講演「ITサービス契約:交渉のオキテ2014」の中で明らかにした(写真)。

 山野井氏によれば、ITリーダーの約60%は、「プロジェクトの途中で認識のずれが発覚した」「(要件を満たしていない部分を指摘したら)変更と見なされ、追加費用や納期延長を要求された」といったトラブルを経験しており、「契約交渉においては、トラブルの発生を想定し、事後の影響を最小限にとどめることが重要」とした。

 山野井氏は、契約交渉時の主なポイントを2つ挙げた。「トラブル発生を前提に対策を考えること」と「ユーザー、ベンダーのどちらかに不利になるような片務性をなくすこと」だ。

 契約交渉では、ついプロジェクトが成功することを想定しがちだが、山野井氏は、まずはその前提を否定すべきとした。「トラブルが発生しない開発プロジェクトはまれ、米国では契約交渉の約7割をトラブル発生時の対策についての合意事項の確認に当てている」(山野井氏)。

 「トラブルが起きたら」という話は、失敗ありきのような印象をベンダーに与えてしまい、ユーザー側では切り出しにくいと感じるかもしれない。しかし山野井氏は「ベンダーは失敗の経験を豊富に持っている。その際にどういった対処をしたのか、この契約ではどういった対策を考えているのか、そのことをしっかりと話してくれるベンダーこそが信用に値する」と述べた。

 契約文書については、「そのひな型を用意する側の負うリスクが最小になるように書かれている」と指摘する。「契約が一方的に不利となるような片務性を除去し、ユーザー側とベンダー側の立場を対等に近づける工夫も必須」と山野井氏は指摘する。

 特にシステムの開発・導入契約において発生しがちな要件・仕様の認識のずれについては、大枠の要件を定めた段階と基本設計に入る前段階での要件というように、「要件定義を2段階に分けて契約交渉をする」ことがトラブル発生のリスクを抑える秘訣だという。併せて、「提案書に記載されている事項が仕様書や契約書でどう具体的に実行されるのかをひも付ける、未確定事項は『未確定であること』を明記することも重要」など、契約交渉時の確認ポイントを紹介した。

 また、運用・管理のアウトソーシング契約においては、運用期間による条件の変化に応じて、事後的に契約を変更できるようにしておくことも重要とした。

 「トラブル発生を前提にする」「片務性をなくす」。このセオリーを持ってすれば、「オフショア開発やアジャイル開発など新たな契約交渉にも備えることができる」として、山野井氏は講演を終えた。