登壇した一橋大学大学院 国際企業戦略研究科 楠木建教授
登壇した一橋大学大学院 国際企業戦略研究科 楠木建教授
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 「経営の能力はスキル教育で養成できない。企業は経営センスのある人材を育てるのでなく、『センスのある人が育つ』土壌を用意するべきだ」──。

 2014年3月10日、都内で開催された「ガートナー エンタープライズ・アプリケーション&アーキテクチャ サミット2014」では、一橋大学大学院 国際企業戦略研究科の楠木建教授が登壇し、経営人材のユニークな育成論を披露した(写真)。

 競争戦略やイノベーションを専門とする楠木教授は「戦略の神髄は、思わず人に話したくなるような面白いストーリーにある」との視点に立ち、経営戦略を筋道立てた話で説明して、これをさらに練り上げたり評価したりする戦略の立案手法を提唱している。この考え方を説明した経営学書『ストーリーとしての競争戦略』(東洋経済新報社)も著し、反響を呼んだ。

 楠木教授は講演で、ストーリーとそうでないものの比較で戦略ストーリーの特徴を説明した。例えば、企業の活動や取引を箇条書きにした「アクションリスト」や取引の形態を図で表したような「ビジネスモデル」は戦略ストーリーではない。このような静止画的なものの羅列を戦略と考える誤解が多いという。

 楠木教授が提唱する戦略ストーリーは、取引や企業活動が多様に組み合わされる空間的な広がりと、時間的な奥行きの両方を備えたものである。空間的に取引や活動の組み合わせだけを示したものがビジネスモデル、時間的奥行きだけを示したものが工程管理(スケジューリング)で、両方を兼ね備えるとストーリーになる。

 例示でストーリーの考え方も示した。例えば、日本マクドナルドの原田泳幸会長が取り組んだ経営改革を簡単なストーリーにすると次のようになる。まずおいしさ(商品価値)を改善する「メイド・フォー・ユー」システムの導入で基礎を固め、次に「100円マック」で驚きを提供して顧客を呼び、昼食重視の新メニュー、続いて話題性重視の新メニューで売り上げを高める。最後に不採算店舗の閉鎖と新店開業で収益力を改善させる。

 楠木教授は、企業の個々の行動や経営者の意思決定は、この文脈上に置いて初めて意味を理解できるようになると説明した。また経営や戦略とは「矛盾を克服したもの(例えば高品質を安くなど)」であることから、矛盾を矛盾のまま扱い、さらにストーリーの時間展開の中でこの矛盾を克服したものが優れた戦略ストーリーだとした。