写真●米ガートナーリサーチ、バイス プレジデント、デニス・ゴーハン氏
写真●米ガートナーリサーチ、バイス プレジデント、デニス・ゴーハン氏
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 「変化がないコアERPへの投資を抑えれば、差別化できる変革ビジネスにIT資源を割り当てられる」---。米ガートナーリサーチでバイスプレジデンントを務めるデニス・ゴーハン氏(写真)は2014年3月10日、ガートナージャパンの主催イベント「エンタプライズ・アプリケーション&アーキテクチャサミット2014」の基調講演に登壇し、IT投資の考え方の一つであるペースレイヤー戦略について解説した。

 デニス・ゴーハン氏は講演で、ITによってビジネスを成功に導くことが可能であるという前提を示し、ITによってビジネスを変革するための方策として、IT投資に優先順位を付けるペースレイヤー戦略が向いているとした。さらに、実際に成果を上げたユーザー事例を示し、ペースレイヤー戦略を実施するためのツールを紹介した。

変化しない業務への投資を抑え、イノベーションに注力

 デニス・ゴーハン氏はまず、現在のユーザー企業が直面している課題として、ビジネスの速度にITが追いついていない点を指摘した。

 現実問題として、ビジネス部門は「ビジネスの実現のためには、今すぐにITの助けが必要」と考えるのに対して、IT部門は「未着手のバックログが18カ月分も残っており、キャパシティーや予算が追いつかない」と考える。さらに、財務部門は「IT支出を削減したい」と考える。

 こうした問題に対処するために、ペースレイヤー戦略が必要になるという。ペースレイヤーとは、業務を、変化の度合いに着目して、記録システム、差別化システム、革新システムの三つに分類する考え方である。

 記録システムは、変化がなく安定している業務である。ERP(統合業務システム)のコア機能などが該当する。このシステムには、何十年という長い単位でデータが記録/蓄積されていく。企業が変化していく際の基礎を作る土台の部分であり、できるだけ触らないようにすることが大切という。

 一方、差別化のシステムとは、他社と比べてユニークで、差別化を生むアプリケーションを指す。製品開発やカスタマーサービスなどの業務が相当する。市場には競合があり、業務の変化に合わせてITシステムも変わっていく必要がある。

 最後の革新システムとは、企業の革新をサポートするシステムである。実験的な試行などが該当する。企業が次の世代へと生まれ変わっていくための差別化要因となる。

 これらの三つのレイヤー(階層)ごとにIT投資のやり方を変えるのが、ペースレイヤー戦略となる。記録システムへの投資を抑えることによって、差別化システムや革新システムを欲する業務の変化に、ITができるだけ追いついていけるようにするのである。

 現状の大半の企業では、ペースレイヤー戦略をとっていないため、IT投資のポートフォリオが最適化されないという。業務の変更頻度や優先度などを無視して、すべての業務に対して同じルールで取り組んでしまっている。これでは、常時バックログを抱えるはめになる。

 現状では、IT投資額の予算の90%以上が既存システムのサポート/保守に割かれている。ペースレイヤー戦略を導入すると、サポート/保守は80%にまで減る。理想は、IT投資の50%をイノベーション(差別化/革新システム)に割り当てることである。