写真●楽天の北川拓也執行役員<br>(写真:井上 裕康)
写真●楽天の北川拓也執行役員<br>(写真:井上 裕康)
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 2014年2月27日、「Cloud Days Tokyo/ビッグデータEXPO/スマートフォン&タブレット/Security」の2日目、午前中のキーノートセッションに登壇したのは楽天の北川拓也執行役員(写真)。

 北川執行役員は米ハーバード大で理論物理を研究し、博士号を取得したのちに、ビジネスの世界に転じ、楽天のデータサイエンス担当執行役員を務めている。
 
 同氏が率いるビヘイビアインサイトストラテジー室は、数学、物理学、生物学、経済学などの研究者で構成されている。台湾やフランスなど日本以外の国籍を持つメンバーが半数を占めるグローバルなチームだ。

 科学の世界からビジネスに転じた理由として北川氏は、自身の母親のエピソードなどを交え、「理論だけでなく、感情で支えられた価値観があることに気付いた」と話した。

 そのうえで、感情価値を重視する楽天の姿勢に共感。楽天のサイトは競合他社と比べて、商品紹介が長いことが特徴だが、「値段、送料などを伝えるだけでなく、イメージを具体的に伝えたり、効用をアピールしたりすることにエネルギーを注いでいるから」と解説した。

 顧客を増やし、売り上げを伸ばしていくうえでは、「“顧客価値”を理解することが必要」と指摘。例えば楽天の店舗で食肉を購入するユーザーにインタビューしたところ、「肉が好き」なだけでなく、「一家でのだんらんを大事にする」といった顧客価値が見えてきたという。

 急激に普及するインターネットショッピングだが、「購買全体に占める割合はまだ10%に満たない」と話し、「ネットショッピングに足りないのは“買い始める理由”」と指摘する。何が人を興奮させ、夢中にさせるのかに興味を持ち、購買行動自体を楽しめるような顧客理解の新しいフレームワークの必要性を指摘した。

 「それを理解するために使うのがビッグデータ。Hadoopなど技術のキーワードで語られがちだが、最後は価値。ツールを使うのはいいがその向こうにある顧客価値を探究する必要がある」と話した。

 データサイエンティスト集団を率い、自らも分析を多く手掛ける。「データサイエンティストの仕事はどんなもの?」という会場からの質問には「解ではなく、問いを提示すること」と答えた。例えば近年、機械学習などによってレコメンデーションの新たな手法が次々と開発されているが、「それは『レコメンデーションが重要か?』という問いがまず提示されたから。有効な問いが生まれれば解はいくらでも出てくる。新しい問いを提示することが次のビジネスを切り開く」と話して講演を結んだ。