右から、ニワンゴの杉本誠司代表取締役、日本棋院の山城宏副理事長、平田智也三段、張豊猷八段、「Zen」開発者の加藤英樹氏、電気通信大学の伊藤毅志助教
右から、ニワンゴの杉本誠司代表取締役、日本棋院の山城宏副理事長、平田智也三段、張豊猷八段、「Zen」開発者の加藤英樹氏、電気通信大学の伊藤毅志助教
[画像のクリックで拡大表示]

 ドワンゴは2014年1月31日、囲碁の棋士とコンピューター囲碁ソフトが対戦する「囲碁電王戦」第1回を、2014年2月に開催すると発表した。プロ棋士2人、アマチュア界での最強棋士1人に加え、囲碁好きで知られる政治家の小沢一郎氏が対局に臨む。迎え撃つのは、現状で最強の囲碁ソフトとして知られる「Zen」。2014年2月11日、同16日の2日間にわたり、日本棋院市ヶ谷本院の「幽玄の間」で開催される。対局の様子は、動画配信サービス「ニコニコ生放送」で生中継する。

 ドワンゴは従来から、将棋のプロ棋士がコンピューターと対戦する「電王戦」を開催している。将棋ではコンピューターがプロ棋士を負かすまでになっているが、囲碁ではまだ人間に分があり、「まだ対等というわけにはいかない」(囲碁電王戦に協力する、日本棋院の山城宏副理事長)。そこでプロ棋士との対戦では、碁盤を通常の19路盤(縦横それぞれ19本の線が引かれたもの)ではなく、9路盤(同9本のもの)を用いる。これによって、両者の実力差を縮め、見応えのある対戦を演出するという。

 出場するのは、張豊猷八段と平田智也三段。それぞれ、既に囲碁ソフトの研究を進めているという。「コンピューターに負けた棋士として名を残さないように、普通の試合以上に気合いを入れて頑張る」(張氏)と気合い十分だ。これに対して、Zenの開発者である加藤英樹氏は「本気でプロ棋士に研究してもらえるのはとても名誉なこと。我々も今回のイベントに間に合うように新しいコンピューターの準備を進めており、今回こそは勝ちたい」と話す。対局は、2月11日に開催する。

 2月16日には、アマチュア棋士との対戦も開催。アマチュア日本代表の江村棋弘氏と、政治家の小沢一郎氏が出場する。江村氏は13路盤、小沢氏は19路盤で対戦する。

 コンピューター囲碁の専門家である、電気通信大学助教の伊藤毅志氏によれば、将棋に比べて囲碁ソフトの開発が難しい理由は大きく2つあるという。1つは、「ルール上、選べる手がとても多い」(伊藤氏)こと。19路盤の場合、囲碁は19×19のマス目のどこに打ってもよい。手数が多い分、最適な手を導き出すのが難しい。

 もう1つは、対局者のどちらがどれだけ有利かを数値化しにくいことという。「将棋の場合は駒一つひとつに価値があるが、囲碁では石一つひとつには意味がない。石が複数つながって意味ができる。その“つながりの意味”をコンピューターに教えるのがとても難しい」(伊藤氏)。

 こうした理由により、コンピューター囲碁は長く低迷が続いていた。だが2006年にモンテカルロ法という新たなアプローチが登場し、コンピューター囲碁を実現するための枠組みが出来上がったという。このアプローチをベースに、現在は急速に進化を続けている。9路盤の勝負なら「コンピューターが勝っても不思議ではない、というレベルにはなっている」(伊藤氏)という。

 ドワンゴの子会社ニワンゴの杉本誠司代表取締役は、囲碁電王戦開催の理由を「囲碁においても、いずれはコンピューターがプロ棋士を超える日が来るともいわれる。コンピューター囲碁の黎明期にある現在において、プロ棋士とコンピューターが真剣勝負をし、切磋琢磨する機会を用意することで、相互に進化できる」と説明した。