写真●検討会の参加者らと講演した多摩大学情報社会学研究所所長の公文俊平氏(マイクを持っているのが公文氏)
写真●検討会の参加者らと講演した多摩大学情報社会学研究所所長の公文俊平氏(マイクを持っているのが公文氏)
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 総務省は2014年1月10日、3Dプリンターなどデジタル式の製造機器がもたらす社会変化を考える「『ファブ社会』の展望に関する検討会」を発足させ、初回会合を開催した。個人のモノ作りが活発になり製造業の役割を一部代替する「Makers革命」が日本でどう起こっていくかを予見し、必要となる社会制度や法制度を提言する狙いである。

 委員はITや製造、デザイン分野などの学識者や知的財産権分野の弁護士らで構成し、座長には慶應義塾大学環境情報学部の田中浩也准教授が就任した。東京オリンピックが開かれる2020年までの社会変化や必要な施策のイメージを描くことを目標に、2014年5月に報告書をまとめる。文書だけでなく「映像などのデジタルコンテンツを使って、『ファブ社会』の具体的なイメージを示したい」(田中座長)考えだ。

 第1回目は情報化社会に関する研究や提言で著名な多摩大学情報社会学研究所の公文俊平所長がゲストスピーカーとして講演を行い、講演内容を踏まえて委員が自由に討議した。公文氏は「ソーシャルファブリケーションで突破する情報社会」との題で、産業革命や20世紀後半から始まった情報化革命などの社会トレンドに関する分析や見解を披露した(写真)。

 例えば、現在の世界は電子産業の「デジタル化」を基調とする「第3次産業革命」と「ソーシャル化」を基調とする「第1次情報革命」が同時に「突破期(爆発的に普及し社会で影響力を拡大している時期)」を迎えている状況だという。ソーシャル化については、知識をネットで共有する「通識」が既に起こっており、これに続いて人々がモノをネット上で共有する「通品化」と呼べる現象が起こるとの近未来像を示した。デジタル製造機器やCAD(コンピューター支援設計)、ネットを活用し、複数の個人がモノ作りで協業する「ソーシャルファブ」はその一つの実現例である。

 通品化の概念は、その後の自由討議でも活発に取り上げられた。「通品化が進めば、人はモノの所有を欲さなくなる可能性がある。モノは必要なときに(設計情報を入手して)作り、用が済めば処分する。その時に起こる社会変化に興味がわくし、知的財産保護などの法的整備も検討すべきだ」(委員を務めるシティライツ法律事務所の水野祐弁護士)。

 総務省の検討会で、直近の予算や制度整備を前提としない中長期的な政策課題を検討することは珍しい。検討会は総務省の情報通信政策研究所の主催で、「現局とは異なる研究所の立場から、直近の政策テーマなどに縛れず中長期ビジョンの策定に焦点を当てた」という。