写真●ガートナーのデーブ・アロン ガートナーリサーチ バイスプレジデント兼ガートナーフェロー
写真●ガートナーのデーブ・アロン ガートナーリサーチ バイスプレジデント兼ガートナーフェロー
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 「数千年の歴史を持つ囲碁から学べることがたくさんある」。こう語るのは、ガートナーのデーブ・アロン ガートナーリサーチ バイスプレジデント兼ガートナーフェローである(写真)。

 アロン氏は、ガートナー ジャパンが2013年10月15日から17日に開催している会議および展示会「Gartner Symposium/ITxpo 2013」で、自身のリサーチ内容を発表。囲碁とIT戦略の類似性を指摘しながら、企業がIT戦略の立案、整備、推進に囲碁の考え方を活かすためのヒントを提示した。

 アナリストであるアロン氏自身、囲碁の愛好者だという。囲碁は自分の石を碁盤に配置していき、最終的により多くの「地」を得た方が勝つ。数千年の歴史を持ち、石の打ち方について様々な研究がなされている。

 囲碁を通じてものの見方が鍛えられるということから、囲碁をたしなむ経営者もいる。その一人としてアロン氏は台湾エイサーの創業者であるスタン・シー氏を挙げる。「スタン・シー氏は自社の経営に囲碁の教えを適用していたと言われている。企業のデジタル・リーダー(IT戦略の推進者)にとっても同じ。囲碁にはデジタル戦略を考える際に役立つヒントが詰まっている」(アロン氏)。

  囲碁には「角」「布石」「模様」「捌(さば)き」など、いくつかの概念および考え方がある。「捌き」は、対戦者に攻められる石すべてを救おうとせず、石全体の状態を考慮しながら徐々に有利な状況に持ち込んでいくことを指す。「デジタル戦略を推進する際には、しばしば既存のやり方と新しいやり方が競合するという問題に直面する。こんな局面においては、『捌き』の考え方を適用すべき」とアロン氏は語る。

 米国の百貨店ベルクは、実店舗とオンライン販売の両方をミックスさせる販売戦略(「オムニチャネル」)を推進中だ。実店舗あるいはオンライン販売どちらかだけを使っている顧客よりも、両方の販売チャネルを使っている顧客の購買額が高いためである。「この戦略を進める過程で、既存の店舗における売り上げが一時的に低下するおそれがあったが、ベルクはそれを受け入れた。短期におけるデメリットを受容し、中長期におけるメリットを最大化する。『捌き』をうまくデジタル戦略に適用した例といえる」(アロン氏)。

 アロン氏はIT戦略の立案と推進には、他社のIT適用事例から直接学ぶというよりは、異なる分野に目を向けそのエッセンスをくみ取るというアプローチの方が成功しやすいと指摘する。「デジタル技術は変化が激しいし、デジタル技術の利用が成功するか否かはビジネスや組織のコンテクスト(背景)に依存する。このため、他社で成功したやり方が自社にそのまま持ち込めるとは限らない」(アロン氏)ためだ。

 「デジタル・リーダーが戦略の立て方や進め方を学ぶ上で、囲碁のような歴史のあるゲームにはたくさんの教訓が詰まっている。その意味では、囲碁はあくまでも一例。学びの源泉として、様々な知恵に目を向け、活用してほしい」とアロン氏は語る。