写真●富士通、取締役執行役員専務の上嶋裕和氏(撮影:後藤究)
写真●富士通、取締役執行役員専務の上嶋裕和氏(撮影:後藤究)
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 「ITの役割は、コスト削減からビジネス創出へと移行した。業務変革に予算を割けるように、現在8割を占めているIT運用費を近代化によって削減しなければならない」---。富士通で取締役執行役員専務を務める上嶋裕和氏は2013年10月11日、「ITpro EXPO 2013」で講演し、今後求められる情報システム像を解説した。

 上嶋氏によれば、社会経済は西暦2000年頃を境に変わったという。例えば、新たな価値観として、シェア(ネットを介した共有)とフリー(無償)が登場。さらに、SNSの広がりによって、消費者が持つ情報量が企業を凌駕する時代になった。一般消費者由来の技術を業務に応用するコンシューマライゼーションも登場している。

 上嶋氏は、社会的価値と経済的価値が両立するようにもなってきた、と指摘する。実際、CSR(Corporate Social Responsibility、企業の社会的責任)の代わりに、CSV(Creating Shared Value、価値を共有)という言葉が生まれているという。例えば、トヨタ自動車のプリウスは、CO2削減と利益を両立している。キリンビールでは、CSR本部ではなくCSV本部を設立した。

 競争相手も多様化している。例えば、現在のコンビニエンスストアは、スーパーマーケットに近くなってきたという。従来のコンビニは24時間営業などの利便性を追求するため商品は高価だったが、現在のコンビニはスーパー並みに値段を落としてきた。また、ネット流通業のAmazonはビッグデータによって売れ筋が分かるので、Amazon限定のカゴメのトマトジュースの販売など、新たな手法に取り組んでいる。

 こうした中、ユーザー企業が作る製品/サービスも、「モノ」から「コト」へと移行する必要がある、と上嶋氏はいう。モノはコモディティー化が避けられないため、モノを活かしたサービスを企画しなければならない。

イノベーション予算の確保にはレガシー資産の運用費削減が不可欠

 こうした社会の変化をイノベーション(業務変革)の好機と捉えなければならない、と上嶋氏は説く。事実、米国やグローバル社会の潮流として、ITの役割は従来の効率化/省力化から事業への貢献へと移っているという。

 米国やグローバル社会とは異なり、日本はイノベーションに予算をかけていない。上嶋氏は電子情報技術産業協会(JEITA)の調査データを引き合いに出し、IT予算の使い方が米国と日本で違っている点を指摘した。米国ではIT予算を、製品/サービスの開発に使うが、日本はIT予算をコスト削減に使うという。

 IT予算全体に占める運用費の割合が、日本は突出して多い(全体の78%)。日本でイノベーションに使えるお金は8%程度しかない。これに対して、グローバル平均で見ると、運用費は64%にとどまっている。

 ITの運用費がかさむ理由の一つは、既存システム資産が膨大であること。ドキュメントが多すぎて保守しきれないといった問題がある。では、作り変えればそれで良いのかと言えば、既存のIT資産へのニーズも強く、作り変えることはできないという。いったい、どうすればいいのか。

 現実問題としては「既存のIT資産を生かしたまま、今よりも運用費を削減する」(上嶋氏)必要がある。こうして浮いた予算を、そのままイノベーションに利用するしかない。

レガシーシステムのモダナイゼーション(近代化)で運用費を削減

 既存のIT資産を捨てずに運用費を減らす方法として上嶋氏が挙げるのが、アプリケーションのモダナイゼーション(近代化)である。近代化のプロセスは三段階で、アプリケーションを、(1)見える化、(2)スリム化、(3)最適化(サービス化)する。

 上嶋氏は、(1)の見える化の例として、富士通が2013年5月から提供している、アプリケーションの可視化機能について紹介した(関連記事:富士通、現行業務システムの複雑な関係を可視化するSIサービス)。富士通に対してソースコードを提出する必要があるが、整理すべき業務アプリケーションを容易に選別できるようになる。

 富士通が提供するアプリケーションの可視化サービスでは、業務システムの現状を分析する手法として、個々の業務同士がデータを介して強く結び付いていてメンテナンスが難しくなっている様子などを、平面上にビル群が立ち並ぶようなビジュアルグラフである“ソフトウエア地図”で表現する。

 なお、アプリケーションの近代化では改修が必要になるので、最初にまとまったお金が必要になるという。だが、一度近代化してしまえば、その後の運用費を減らすことができるようになる。