写真1●アイティメディア エグゼクティブプロデューサー 浅井英二氏
写真1●アイティメディア エグゼクティブプロデューサー 浅井英二氏
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写真2●日経BPイノベーションICT研究所 桔梗原富夫所長
写真2●日経BPイノベーションICT研究所 桔梗原富夫所長
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 IT業界を長年取材してきたメディアの識者は、今後この業界にどのような波がやって来ると見ているのか。2013年10月10日、東京ビッグサイトで開催中の「ITpro EXPO 2013」の特別対談にて、アイティメディア エグゼクティブプロデューサーの浅井英二氏(写真1)と日経BPイノベーションICT研究所の桔梗原富夫所長(写真2)が登場し、2014年のITトレンドを予測した。

Windowsデバイスは発展するか

 最初に浅井氏、桔梗原所長が話題にしたのはスマートフォンやタブレットなどのデバイスについてだ。いまこの分野ではiOSやAndroidデバイスが注目されているが、気になるWindowsベースのデバイスの動きを2人はどう分析するのだろうか。

 浅井氏は、Windows 8がタブレットを前提として開発されたOSであることを指摘。「Windowsスマートフォンが市場に受け入れられるかどうかはわからないが、Windows PCで培ってきたノウハウには期待が持てる」と評価した。桔梗原所長も、「Officeソフトを利用するとなると、Windowsベースのシステムは強い」と同意する。

 ただし、桔梗原所長は「企業で一斉導入するにはWindowsベースのタブレットも良い選択肢となるかもしれないが、すでに個人で利用しているiOSやAndroidデバイスのBYOD(Bring Your Own Device)を許可する企業では、Windows端末の導入が難しくなるだろう」とする。

 また浅井氏は、「BYODの動きは止められない。今後デバイス選択の自由はますます上がるだろう。管理やセキュリティの環境が整えば、どんなデバイスでも使えるようになる」と述べた。

ソーシャルメディアとビッグデータの行方

 次に話題はソーシャル分野へと移った。桔梗原所長は、「ソーシャルメディアの時代において重要なのはリアルタイム性と双方向性」と指摘。情報共有の利便性も上がり、「今後企業でもこの手法が取り入れられていくことは間違いない」とする。

 ソーシャルメディアの活用が進むと同時に注目されるのはビッグデータだ。桔梗原所長は、ガートナーのビッグデータに関するハイプサイクルについて触れ、「ガートナーではすでにビッグデータがピークを越え、成熟前の幻滅期に入りつつあると見ている」と話す。

 幻滅期とは、過度の期待が落ち着く時期のことで、技術が成熟する前に必ず訪れるものだ。浅井氏は、「企業ではこれまで活用できずに捨てていた生データを分析し、何かできないかといった取り組みを進めようとしている。社内データを活用する動きは確実にある」とする。

 「これまでは、財務データなど過去の実績からその傾向を分析するシステムが中心だったが、リアルタイムでデータを分析するとビジネスが変わる。それこそがソーシャルメディアやセンサー技術を活用する世界だ。リアルタイム分析を経営に生かすというのは夢のような話だが、例えば製品の価格を上げるとどうなるか、下げるとどうなるかといったことがコンピュータの中で再現されるのだから、リスクを下げるためにも有効だ。経済状況や競合を分析しつつ将来予測ができるのであれば、やらない手はない」と浅井氏は述べた。

クラウドの課題は?

 クラウドについては、新たなシステムを導入する際にクラウドを前提として構築する「クラウドファースト」が浸透しつつある。一方で、「いかにしてクラウドと既存のIT資産との整合性を取るかが課題だ」と桔梗原所長は指摘する。

 浅井氏は、「クラウドを利用すれば運用など気にする必要がないと言われてきたが、実際最大のパフォーマンスを出すためには運用が重要になる。特に、クラウド化が進めば進むほど、アプリケーションのデザイン段階から運用担当者と共同で構築するケースもあるようだ」と話す。桔梗原所長も、「開発と運用が協力してシステム構築に取り組むというDevOpsが注目されるのもそのためだろう」としている。

2014年に向けた動きを予測

 最後に浅井氏と桔梗原所長は、2014年のIT業界を予測した。

 桔梗原所長は、ヴイエムウェアやマイクロソフトといった仮想化のソフトウエアベンダーが、IaaS(インフラストラクチャ・アズ・ア・サービス)を提供し始めている点に注目。「クラウドの世界では技術進化が激しく、ここでイニシアティブが取れないようではIT業界全体でのイニシアティブが取れない。つまり自らがクラウドサービスを提供するべきだと考えているのだろう。この動きはさらに加速し、クラウドサービスの競争が激化する」とした。

 浅井氏は、PaaS(プラットフォーム・アズ・ア・サービス)が顧客を特定のベンダーにロックインするサービスであることを指摘、この状況を解消すべきだとする。「PaaSの標準仕様である『TOSCA」(Topology and Orchestration Specification for Cloud Applications)』もリリースされており、標準化は必ず進む。PaaSが標準化されることで、新たなプレイヤーが登場するかもしれない。標準化はユーザーメリットも大きいため、ユーザーも標準でないものは採用しないようにするとよい。この動きには今後も注目していきたい」と述べた。