写真1●オブ・ザ・イヤー2人への表彰の後、講演と対談が行われた(写真:後藤究)
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写真2●日本交通の執行役員である野口勝己氏(写真:後藤究)
写真2●日本交通の執行役員である野口勝己氏(写真:後藤究)
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写真3●大阪ガス情報通信部ビジネスアナリシスセンター所長の河本薫氏(写真:後藤究)
写真3●大阪ガス情報通信部ビジネスアナリシスセンター所長の河本薫氏(写真:後藤究)
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 開催2日目を迎えた「ITpro EXPO 2013」。アリーナ会場は、CIOオブ・ザ・イヤーと、データサイエンティスト・オブ・ザ・イヤー2人の受賞者による対談で幕を開けた(写真1)。いずれの賞も、経営とIT活用事例を紹介する月刊誌、日経情報ストラテジーが設けている賞だ。

 CIOオブ・ザ・イヤーは毎年、特に活躍が際立った企業のCIO(最高情報責任者)を選出するもの。今年は、ハイヤー・タクシー会社、日本交通(東京・北)の執行役員、野口勝己氏が受賞した。同氏は、スマートフォン向けのタクシー配車アプリの開発を指揮し、顧客と売り上げが増加する成果を出している。さらに利用範囲をグループ会社だけにとどめず、タクシー業界各社にも広げていることが評価された。

 一方のデータサイエンティスト・オブ・ザ・イヤーは今年初めて設立した賞。データ分析を通して経営に貢献する顕著な実績を上げているデータサイエンティストに贈られる。

 初代受賞者は、大阪ガス情報通信部ビジネスアナリシスセンター所長の河本薫氏。データ分析集団のリーダーとして、大阪ガスグループ内の様々なビジネス課題を解決し、データサイエンティストという“セクシー”な仕事の意義を広めたことが高く評価されての受賞となった。

「配車アプリは軽いノリでスタート」と明かす野口氏

 満員のアリーナ会場で、2人に記念トロフィーが授与された後、野口氏と河本氏がそれぞれ講演した。

 野口氏は講演で、全国タクシー配車アプリの開発経緯を披露。川鍋一朗社長やコンサルタントとの雑談のなかで、「スマホで面白いことができないかと、初めは軽いノリで始めた」と明かす(写真2)。スマホのGPS機能を利用したピザの宅配アプリなどを参考に、簡単にタクシーを呼べるアプリ開発が始まった。

 最初は日本交通のタクシーを呼ぶ配車アプリを2011年1月に公開。以来、配車台数は右肩上がり。直近では、無線センターに届く20万件のうち、15%はスマホからの依頼だという。しかもそのうちの6割が、日本交通のタクシーを初めて呼んだ、いわば新規顧客だった。「ミッションである顧客の創造にも貢献できた」(野口氏)。

 全国展開は、「なぜ日本交通だけなのか?」「どうして東京限定なのか?」といった顧客からの声がツイッター経由で多く寄せられたことがきっかけで始めた。スモールスタートができて、あとでスケールアウトできるようにと、システムに米マイクロソフトのWindows Azureを採用。運用コストを極力抑えて、参加するタクシー会社の投資額を低くする工夫も凝らしている。その結果、2011年12月に公開した全国版のアプリは、今やダウンロード数が70万件に達している。

 話題は2020年の東京オリンピック開催にも広がった。「今後多言語化が必要と考えて、早速今週、英語版をリリースしたところだ。同様のサービスを国内で展開し始めている外資系企業に負けないよう、顧客の利便性向上のため、機能追加を続けていく」と話す。

 日本交通のIT革新は、スマホにとどまらない。ハードウエアを含めての展開を検討しているという。タクシー会社向けのドライブレコーダーを開発し、2014年2月に販売するという。タクシー専用無線を使わず、インターネット経由でタブレット端末に配車指示を行うIT配車システムも2014年2月に運用を開始する。「今後はタクシー料金メーターやデジタルタコメーター、究極はタクシー専用車両も手掛けていきたい」と、野口氏は意気込みを語る。

「分析問題は社内に落ちていない。自分たちで探す」と河本氏

 大阪ガスの河本氏は「米アマゾン・ドット・コムや米グーグルと比べると、数学的にもデータの規模的にも及ばないところがあるとは思う。だが10年ほど前にデータ分析の専門組織を作って、“泥臭く”地道に取り組んできたことが評価されてうれしい」と話す(写真3)。

 河本氏の講演では、9人のメンバーから成るビジネスアナリシスセンターの取り組みを紹介した。社内の全部門に加え、グループ会社に向けて、データ分析サービスを提供している。