写真●東京大学大学院教授で情報学環長・学際情報学府長を兼務する須藤修氏
写真●東京大学大学院教授で情報学環長・学際情報学府長を兼務する須藤修氏
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 8月29日・30日の2日間、広島国際会議場(広島市)で開催された都道府県CIOフォーラム第11回年次総会で、東京大学大学院教授で情報学環長・学際情報学府長を兼務する須藤修氏が「行政事務基盤から行政サービス基盤へ進化するICT」という題で、電子行政化について講演した(写真)。

 最初に、自治体の持つ情報データを民間に開放するオープンデータについて言及。米国ではブッシュ大統領時代から進めてきた施策で、多くの大都市が積極的に取り組んでおり、行政がデータセットを匿名化して公開し、民間がそれを利用してビジネスを展開するという流れができつつある、と説明した。「従来は、行政が民間に資金を払って依頼し、責任は行政が負うパターンだった。現在はデータを無料で出すから、民間で責任を持って事業化してくれ、というケースが増えている」(須藤氏)。

 日本でも、福井県鯖江市などオープンデータに積極的な自治体が登場している。「現在の政権政党である自民党や公明党にこの話をした際には、『われわれの理念と合致する』という答えをもらっている。ただし自治体など行政サイドは、責任問題もあってか、ガードが固いと思う。どこまで責任を取るか線引きをしたうえで、(CIOが)腹をくくってやるしかない」と須藤氏は語った。

 続いて、マイナンバー制度に言及。EUで特に進んだ電子行政サービスを展開しているデンマークを例に引き、「行政データを連携させる基盤があるため、情報をワンストップ+プッシュ型で提供できる。必要なのは申請だけで、本人証明が不要な行政手続きも多い。日本も、電子行政サービスをこのレベルまで持っていくべき」と持論を展開。続けて「民主党時代はあまりやる気を感じなかったが、現政権はワンストップ+プッシュまでやろうと本気で考えている」と、政府の委員会などで何度も長を務めた経験からの印象を述べた。

 地方自治体のCIOに対して須藤氏は、「現政権が法案に修正を加えたが、それは番号制度(マイナンバー)や個人番号カードを、行政事務以外の様々な用途にも活用することを念頭に置いたもの。法律にある通りの事をやっていてもダメで、積極的に条例を制定して多目的活用を図るべき。自治体の個性や創意工夫の有無が表れる」と断言。3年後の法案見直し時には、民間のデータを扱う可能性もある、と指摘した。

 認証基盤については2種類以上のバイオメトリクス認証導入を、個人情報利用に関してはチェックする第三者機関の設立を、それぞれ提案した。また平成26年度から27年度にかけて、住民基本台帳システムや中間サーバー、宛名管理システムなどに対する多額の投資が発生することに言及し、政府からの援助が期待できるとした。ただし小規模な自治体については、クラウド技術の導入などを通じてより大規模な自治体との共同利用を探っていくべきと主張した。

 セキュリティに関しては、標的型攻撃が急増していることを指摘。「庁内のネットワークが堅牢でも、職員の自宅のPCが狙われる。一番いい手段は、クラウド型セキュリティを導入すること。自分たちで守るなどという幻想は捨てた方がいい」と警告した。また、被害を受けたときにダメージを減らすための態勢を作っておくことが重要、と付け加えた。

 この他の自治体関係の取り組みとして、須藤氏の研究室と鳥取県で進めている同県の新経済成長戦略策定事業を紹介した。新たな分析手法を基に開発したシミュレーションツールで、2020年の鳥取県経済に関する予測を実施。その結果を、現在どのような施策を実施すべきかを選択する際の材料とする試みだ。一方、総務省の実証実験である「活力ある超高齢社会の推進」を産官学で進めている事例も紹介。自治体は千葉県柏市、宮城県石巻市、東京都文京区の3団体、民間企業はNTT、日本IBMなど20社が協力表明しているという。「人の“虚弱化”は必ず起こる。介護や在宅医療がうまく回るようなICT基盤を作り、利益が出る段階まで持っていくのが目的。番号制度の利用も考えている」と説明した。