写真●佐渡島庸平氏(右)と川田十夢氏(左)
写真●佐渡島庸平氏(右)と川田十夢氏(左)
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 「インターネットによって今、明治維新のときのような大きな変化が起きている」。クリエイターのためのエージェント企業であるコルクの代表取締役社長を務める佐渡島庸平氏は、ゲーム開発者のための会議「コンピュータエンターテインメントデベロッパーズカンファレンス 2013(CEDEC 2013)」の基調講演をこう切り出した。

 同氏は、講談社で「バガボンド」「ドラゴン桜」「働きマン」「宇宙兄弟」といった数々のヒット漫画を担当してきた元編集者。2009年秋に講談社を退社し、コルクを設立して漫画にとらわれないコンテンツの世界に飛び込んだ。「明治維新後の数年間でその後の日本の姿が規定された。同じようなことが今後4~5年で起こる」(同氏)。

 佐渡島氏によると、インターネットの初期を現実にたとえると、道が敷かれ始めた段階だったという。そこに信号機や交通ルールの役割を果たすYahoo!やいわば高速道路のようなGoogleが生まれた。ただ、これだけではまだ道しかない。次にTwitterやFacebookといったSNSができた。これは多くの人が集まる新宿駅や羽田空港のような公共の場所だ。ただ「まだそんなにおもしろくない」(同氏)。現実の世界にはディズニーランドやハウステンボスといった楽しい場所があるが、インターネットでは、真のエンターテイメントはまだ始まっていないと同氏は見る。「電子書籍は現実の本、動画サイトはテレビを置き換えているに過ぎない」(同氏)。ネットのポテンシャルが生かされていないのだ。

 コンテンツ業界において佐渡島氏が考える今後の課題は二つ。まず「メディアの境界がなくなってきている」という問題だ。ユーザーはコンテンツには境界を感じていない。映画にも音楽にもゲームにも同じお金や時間を使う。ところが「漫画雑誌には漫画しか載っていない。小説やノンフィクションがなぜ載らないか。それは出版社内の部署が違うからだ」(同氏)。あくまで作り手側の事情であり、ユーザーのためにはこれを壊す必要があると同氏は考えている。「従来は本、映画、CD、ゲームはすべてデバイスが別だった。ところが今はすべてスマートフォンの中に入っている。スマートフォンの中にはカレンダーのアプリやSNSのアプリもある。つまり、ゲームや小説といったコンテンツが、実際にはカレンダーアプリと競争する状況になっている。ところがそれに対応できてない」(同氏)。

 二つ目は「コンテンツのおもしろさの基準が変わってきている」という問題だ。同氏は、漫画の編集をしていたときに、おもしろさの絶対値を上げようと必死になっていたという。ところが、時間と労力を掛けた作品が評価されず、どんどんヒットが生まれにくい状況になってきた。そうした中、「おもしろさは絶対値ではなく、絶対値と親近感を掛け合わせた面積なのではないか」と気付いたという。

 週刊誌の文章とSNSの文章を比べた場合、週刊誌のほうが取材の裏づけもあり文章も練られている。にもかかわらず、なぜSNSの文章のほうがおもしろいのか。それは家族や友人が書いているからだ。「レストランと母親の料理を比べると、絶対値ではレストランのほうが上なのに、母親の料理のほうがおいしく感じる」(同氏)。ソーシャルゲームがゲーム機用のゲームよりも品質が劣るといわれながら普及したのも、親近感が関与しているという。「親近感がないコンテンツはこれからは勝てなくなる。これをどう生み出すか」(同氏)。