2013 PCカンファレンスの実行委員長を務める、東京大学の山内祐平准教授。基調講演も行った
2013 PCカンファレンスの実行委員長を務める、東京大学の山内祐平准教授。基調講演も行った
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反転学習について説明する山内氏
反転学習について説明する山内氏
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北海道大学情報基盤センター メディア教育研究部門の重田勝介准教授。MOOCなどのオープンエデュケーションが専門で、自ら小規模なMOOCを運営する取り組みも始めているという
北海道大学情報基盤センター メディア教育研究部門の重田勝介准教授。MOOCなどのオープンエデュケーションが専門で、自ら小規模なMOOCを運営する取り組みも始めているという
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重田氏は、MOOCは従来のオープンエデュケーションの進化形であると指摘した
重田氏は、MOOCは従来のオープンエデュケーションの進化形であると指摘した
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PCカンファレンスの冒頭で趣旨説明をする、CIECの妹尾堅一郎会長。既存の教育モデルの改善だけでなく、新たなモデルを創出する必要があると話した
PCカンファレンスの冒頭で趣旨説明をする、CIECの妹尾堅一郎会長。既存の教育モデルの改善だけでなく、新たなモデルを創出する必要があると話した
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 「つぎの教育イノベーションを問う」をテーマにした学会「2013 PCカンファレンス」が2013年8月3日、東京大学駒場キャンパスで開幕した。初日には、MOOC(Massive Open Online Courses)や反転学習(反転授業)など、最新の教育イノベーションをテーマにした基調講演が行われた。

 2013 PCカンファレンスは、コンピュータ利用教育学会(CIEC)および全国大学生活協同組合連合会が主催する。2013年8月5日までの3日間にわたり、ITを用いた新たな教育に関する講演や研究発表などが行われる。初日の基調講演には、2013 PCカンファレンスの実行委員長である東京大学大学院情報学環の山内祐平准教授、および北海道大学情報基盤センター メディア教育研究部門の重田勝介准教授が登壇した。

 山内氏の演題は、「教育イノベーションを問う:東京大学の試みから」。教育工学・学習環境デザイン論を専門とする同氏は、東京大学における自身の取り組みをキーワードとともに振り返りながら、反転学習など最新の教育イノベーションについて語った。

 山内氏が東京大学着任後、2004年にまず取り組んだのが、「Mobile Learning」。当時急速に普及していた従来型の携帯電話を用いて、親子で学ぶ学習システムを開発・運営した。2007年からは、「Active Learning」がテーマとなった。単に講義を聞くのでなく、実験やディスカッションなどを通じて能動的に学ぶスタイルのことで、そのための教室を設計し、駒場キャンパスに開設した。SNSが盛り上がりを見せていた2010年からは、「Social Learning」への取り組みを開始。SNSで異世代をつなぎ、新たな学習環境を作り出した。

 そして今、こうした過去の成果を踏まえた上で取り組んでいるのが「Flipped Learning」だ。反転学習などと訳されるもので、これまでの講義と課題の役割を反転させる学習方法を指す。知識の習得は、オンライン教材などを使って事前に済ませておき、講義に臨む。ここで活用されるのが、今、大学界で大きな話題となっているMOOC(またはMOOCs)と呼ばれるネット上の無償講義だ。教室で行われる対面での講義では、事前学習を基にした応用課題やディスカッションなどに取り組む。

 このように山内氏は、それぞれの時代ごとに話題のキーワードを研究の対象としてきた。だが「自分でも常に自戒しているが、大事なのはキーワードに振り回されないこと」とも話す。4つのキーワードの裏にある、「対面の学習とメディアをどう組み合わせるか」などの本質的な問題を常に意識する必要があるという。

 また旬なキーワードを追いかけるだけでは、本当にそれが学習者の利益になるのかという点を見落としかねない。さらに、それが持続的に展開可能な取り組みであるか、ほかの手段で代替可能ではないのか、といった点を冷静に考える必要がある、と指摘した。

 続いて壇上に立った重田氏は、山内氏の講演にも登場したMOOCをテーマに講演を行った。まずは、MOOCの概要や歴史的な経緯を解説(関連記事:Facebook/Twitterをしのぐ勢いでユーザーを集める「Coursera」とは)。世界中の名だたる大学が、講義映像や課題をネット上で無償公開し始めている現状を説明した。さらにMOOCの前身として、オープンコースウエア(OCW)など、これまでのオープンエデュケーションの歴史的な経緯を紹介した。

 大学の講義や教材は、従来、限られた学生に有償で提供されてきた。これを広く無償で公開する活動が、なぜこれほど広がりを見せているのか。その背景には、「理念と実益が共存している」と重田氏は指摘する。社会貢献活動としての意義に加え、大学にとっては優秀な学生の獲得や、教育コストの軽減などの実益ももたらす。さらにMOOCの場合は、認定証発行時に手数料を徴収するなど、収益が上がる仕組みも考えられている。

 MOOCは今や、大学だけでなく、企業や社会にも広がりを見せつつあるという。例えば米ヤフーは、MOOCを社内教育に活用している。企業が製品やサービスを提供する際に、その利用方法をMOOCとして提供するといった使われ方も出てきているという。

 このように、オンライン教育やMOOCは「今後の社会インフラになる」(重田氏)。現代のように変化の激しい社会では、人々は一生涯学び続けることになる。こうした学びは、学校・大学だけでは支えきれない。誰もが教育に携わる“総教育社会”になっていくだろうと重田氏は話す。

 そんな中、大学は「14世紀の印刷革命に並ぶ、大きな変革期」(重田氏)を迎えている。同氏によれば、現代は、「知」は固定的なものでなくなっているという。「知」とは社会の中で常に変動し、協同的に構築されるものであり、インターネットのように「多くの人が集まり学ぶ場に優位性がある」と重田氏は話す。こうした時代を乗り切るためには、「大学が“変身”することは必然」と述べ、今後は大学が、多様な学びを支える役割を担う必要があるとした。同時に、大学教員は今後グローバル競争にさらされることになり、「ほかでは教えられない内容、方法を持つ教員が強みを増すだろう」と指摘した。