「苦労はあったが、パートナーと共に目標を達成しつつある」。2013年7月10日に開催された「SAP Forum Tokyo」の基調講演でこう話すのは、旭化成 取締役兼常務執行役員でCIO(最高情報責任者)を務める小林宏史氏だ(写真1)。旭化成は、グループ内にある13個のERP(統合基幹業務システム)の統合に取り組んでいる。

写真1●旭化成の小林宏史氏
写真1●旭化成の小林宏史氏
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 旭化成の2015年までの中期経営計画では、目標として「総合力の発揮」を挙げている。グループ内の個別の事業を横断して新しい事業を作り、成長を追求しようというもので、統合システムがその礎となる。講演では、中期経営計画に合わせて構築する新システムの狙いとして「組織変更への対応迅速化と効率化」「基幹システムのトータルコスト削減」の2つがあることが紹介された。システムの削減額は、2~3割を目指しているという。

 具体的な削減のポイントとしては、ホームズ、エレクトロニクス事業を除く部門の会計、生産、購買システムを共通化する、4500本のアドオン機能を1500本にする、1万5000本の帳票を1000本にするという大胆な統合目標が挙げられた。統合システムの基盤として、高速処理が可能なインメモリー・ソフトウエア「SAP HANA」の採用を決めている。

 2010年に着手した旭化成のシステム改編では、2015年をゴールとし、全スケジュールを第1期~3期に分けて実行する。今回の講演では、第1期の取り組みが紹介された。第1期の主対象となるのは、グループ売り上げの4割を占めるケミカル部門である。

 小林氏がシステム構築時の課題としたのが、「開発期間が短いことで、品質を確保しながら進める必要があったこと」「たくさんの関係者を巻き込んで、方向性を合わせる必要があったこと」の2点。

 品質確保については、時期を追って不具合が減っていったデータを示したうえで、「これだけをみると順調に推移したように見えるが、実は苦労した」と明かした。具体的には、販売物流システムについて、要件定義から外部設計への移行時に問題があったのだという。要件定義に甘さがあったためであり、システム実装するパートナー企業からの指摘を踏まえ、要件定義をやり直したのだ。この時間ロスのために、その後のスケジュールがかなり詰まってしまったものの、振り返ってみるとこのやり直しが功を奏したという。

 小林氏は「我々が目標とする“経営に資するITの実現”に確信を持てるようになってきた」として講演をまとめた。