写真●NTTデータの岩本敏男社長
写真●NTTデータの岩本敏男社長
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 2013年7月5日まで開かれたIT Japan 2013で、NTTデータの岩本敏男社長が登壇(写真)。「加速する技術革新の先にある『淘汰』と『創造』~未来を見通すNTT DATA Technology Foresight」と題する講演で、今後は人の創造性や能力を拡張する領域で、ITが使われていくとの予測を披露した。

 岩本社長は、いま社会に大きな影響を与えるような飛躍的な技術の発展、つまり「Singularity(特異点)」が起こっていると指摘した。情報通信技術(ICT)分野では、コンピュータの処理能力が1世代ごとに倍増するなど、指数関数的な性能向上が背景にあるという。

 指数関数の特徴は、ささいな変化がある段階から目に見えて大きな変化に変わることである。岩本社長は、睡蓮(すいれん)の葉が一定期間ごとに倍々で増えるという例を出して、「最初は池の1%ほどの面積に植えた睡蓮も、7回の倍増で元の128倍となり、池全体を覆い尽くす」と指摘。このようなことがIT技術の進化により、様々な分野で起こっているという。

 例えば、2013年にはコンピュータが将棋で日本将棋連盟加盟の棋士を破ったニュースが報じられた。盤面のマス目が将棋の縦横9に対して19と多く手の数がより多い囲碁は、当分は人が強いと思われているが、「(コンピュータが囲碁でも人を負かす)Singularityはあっと言う間に来るだろう」(岩本社長)。米グーグルが開発を進める自動車の自動運転技術でも、2004年頃には12kmにとどまっていた走行距離が、2010年頃には1600kmと飛躍的に伸びた例を紹介した。

センサーなどを使い熟練者の技能をモデル化していく

 こうした飛躍的な性能向上を背景に、岩本社長は人とITの関わり方が変わり、ITは主に三つの領域で活用されていくと予測した。「Create(人の創造性を支える)」「Stretch(人の能力を拡張する)」「Assist(人の作業を支援する)」である。

 Createでは、2009年に建築学会賞を受賞した「せんだいメディアテーク」が、構造計算を駆使して、従来は困難と思われていた建築造形を実現した例を説明した。Stretchでは、人にセンサーを取り付けて、視聴覚や運動覚(運動の状態)などをコンピュータでモデル化するプロジェクトを紹介。このように人の「工学的分身」を作って活用することで、熟達した救命士や運動選手の技能を後継者が習得するなど、新しい技能習得手法が実現し、人間の能力を拡張していくとした。

 Assistでは、NTTデータの本業であるシステム開発での取り組みを紹介した。膨大な開発経験や知識をデータベース化した「IWB(インテリジェントワークベンチ)」である。SE(システムエンジニア)はIWBと対話しながら顧客企業が求めるシステムを迅速にプロトタイプ化できる。これによりシステム開発の分野で生産革命が起こせるとした。

 岩本社長は、技術や社会動向などの分析からNTTデータが予測する今後のトレンドを四つに分けて、披露した。「競争力の源泉は知識やノウハウの活用へシフトする」「マス重視から個重視の社会へ」「環境やニーズ変化へのリアルタイムな対応が求められる」「誰でも活用できるITが普及する」である。

 例えば、三つ目の「環境やニーズ変化へのリアルタイムな対応」では、ビッグデータ技術などの普及により、電力の発電量予測と消費量の予測を結びつけて電力価格を決定する、ダイナミックプライシングが普及すると予測する。柔軟な価格により電力消費を平準化させるなど、電力需給の最適化にITが役割を担うとした。