写真●日本NCR 代表取締役社長兼CEOの諸星俊男氏(写真:井上裕康)
写真●日本NCR 代表取締役社長兼CEOの諸星俊男氏(写真:井上裕康)
[画像のクリックで拡大表示]

 日本NCR 代表取締役社長兼CEOの諸星俊男氏は2013年7月5日、日経BP社が東京・品川プリンスホテルで開催中のイベント「IT Japan 2013」で「『顧客体験』の変革がオムニチャネル時代を勝ち抜く鍵」と題して講演した(写真)。「消費者の思い」と「企業側の論理」にはギャップがあると指摘。そのギャップを乗り越えて、消費者起点の発想で「顧客体験」を変革するにはどうすればいいかを、実例を通して紹介した。

 日本NCRが設立されたのは1920年で、93年の歴史を持つ。これは米国系の外資系企業では最長だという。「外資系というよりはもう日本的な会社」(諸星氏)である。NCR社は旧名の「National Cash Register」が示すように、もともとキャッシュ・レジスタのメーカー。1953年には、日本初のセルフサービス方式の店舗である青山紀ノ国屋をサポートした。現在、日本ではセルフレジで約7割のシェアを持つという。

 同氏がタイトルに掲げた「オムニチャネル」とは、実店舗からコールセンター、Webサイト、電子メール、SNS、口コミ、モバイルなど、消費者と企業を結ぶすべてのチャネルを指す。ITインフラの進展に伴って、消費者は様々なチャネルで企業と接し、情報を入手するようになった。ところが、多くの企業のアプローチはまだ個別最適、個別管理に留まっている。

 この結果、現在の消費者には「費やす労力の割にはそれに見合うサービスを受けていない」という大きな不満があるという。消費者は「行列に並ばせないでほしい」「私の欲しいものをいつでもどこでも簡単に見つけられるようにしてほしい」「重要な顧客として扱ってほしい」という思いがある。一方、企業側は「低コストを維持しつつ成長を加速したい」「従来のシステムと新システムを統合したい」「高いセキュリティを保って法令を順守したい」といった企業の論理で動いており、顧客体験に関する消費者との間のギャップは拡大する一方だという。

 その結果、消費者はどう考えるようになったのか。86%の消費者は「より良い顧客体験には多くのお金を払ってもよい」と感じており、89%の消費者は「残念な顧客体験をした後は同業他社に切り替えてもよい」と思っているのだ。

 この問題を解決している事例として、諸星氏は大手小売り業者である英TESCO社のオムニチャネル戦略を取り上げた。戦略の中心にあるのが「TESCO Club Card」。TESCO社はこのカードを「お客様にありがとうを言うためのツール」と位置付け、ロイヤルティが高い顧客に商品券やクーポン、適切なDMなどを提供している。

 またTESCO社は、世界最大のネットスーパーである「TESCO.COM」も持つ。2012年時点で売上高は20億ポンド(約2500億円)。「高齢者向けのイメージが強い日本のネットスーパーとは桁が違う」(諸星氏)。オンライン・モバイルコマースも積極展開。モバイル・アプリによるオンライン・ショッピングに加え、オンラインで購入した商品を店舗で受け取れるサービスやレシピから献立を決めて必要な食材を購入できるサービスなども導入している。FacebookやTwitterといったSNSも活用。Facebookで「いいね!」を付けた消費者は2012年の時点で120万人に及ぶ。セルフレジも積極的に導入し、セルフレジしかない店舗もあるという。

 他の事例も取り上げた。米国のスーパーマーケット・チェーンであるSafeway社は、「Just for U」というクラブカードで、個人の顧客ごとにきめ細かいサービスを提供している。インドのHDFC銀行は、ATMにキャッシュ・カードを挿入したときの画面を個人ごとにカスタマイズし、いつも引出す金額に設定された画面が表示されるようにした。インドでは現金を引き出している間に乗ってきた車が盗まれたりするので、できるだけすばやく引き出せるようにするためだという。米国のWells Fargo銀行は、行員が店にいない銀行である「Neighborhood bank」を実現した。窓口を廃止し、24時間稼働するフル機能のATMを配置。対面サポートが必要な場合には、少数の行員がタブレット端末でサポートする。

 最後に諸星氏は「チャネルが異なっていても、消費者にとっては一つの企業」と指摘。企業はすべてのチャネルを使ったシームレスなアプローチで顧客体験を改善する必要があるとした。