写真●日立製作所 執行役専務 情報・通信システムグループ 情報・通信システム社社長 齊藤裕氏(写真:井上裕康)
写真●日立製作所 執行役専務 情報・通信システムグループ 情報・通信システム社社長 齊藤裕氏(写真:井上裕康)
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 「ITを活用することにより、企業のビジネス活動のみならず社会のエコシステムにも新たな価値が生まれる」――日立製作所 執行役専務 情報・通信システムグループ 情報・通信システム社 社長の齊藤裕氏はこう語る(写真)。同氏は2013年7月5日、日経BP社主催のイベント「IT Japan 2013」で「ITで実現する、ビジネスと社会のイノベーション」と題して講演した。

 齊藤氏は、ガートナーの調査結果から、CIOが選んだビジネス戦略のなかで、2012年には8位だった「新商品や新サービスを開発すること」が2013年にはトップになったことを指摘。「市場は迅速に変化しており、企業も市場の変化のスピードに合わせてダイナミックに変化することが求められている。新たなアプローチでビジネスに取り組み、ビジネススタイルを変えていくようなニーズが出てきている」と述べた。

 こうした状況のなか、齊藤氏は日立のイノベーションへのアプローチを紹介した。まずは社会イノベーション事業の1つとして、交通における制御・運用システム(OT:Operation Technology)とITを連動させた交通ソリューションを紹介。「例えば、これまでのように車両事故が起こってから修理するリアクティブな方法ではなく、車両にセンサーを取り付けて事前に問題を察知し、事故が発生する前にプロアクティブなメンテナンスをするという方法を取り入れている」と齊藤氏。これにより、保守コストの最適化が可能だという。

 また、建設機器にセンサーを取り付け、衛星経由で建築設備管理者にリアルタイムで稼働状況やメンテナンス情報を提供するようなシステムも構築中だとしている。

 さらに、こうした社会インフラを支えるバック領域のみならず、生活やビジネスを支援するフロント領域においても「人やモノの動きを可視化して分析し、インテリジェンスを埋め込むことで、生活の効率化や安心で安全なインフラが実現する」と、齊藤氏は話す。

 例えば日立では、柏レイソルのU-18を対象に運動量センサーである「ライフ顕微鏡」を提供。ライフ顕微鏡では、試合中に走った距離やパスの数、シュートの数といったデータはもちろん、トレーニングジムでのパフォーマンスや日々の生活リズムを分析している。これにより、選手のコンディション管理や疲労状況に応じたトレーニングに役立てているという。

 また、日立は「ビジネス顕微鏡」として、あるホームセンターでの従業員の配置と客単価の関係を調査。特定のスポットに従業員を重点的に配置したところ、顧客の動線が拡大して滞在時間が長くなり、客単価が15%向上した例を紹介した。齊藤氏は「人の行動をビッグデータ解析することでサービスが革新し、従業員を増やすことなく売り上げ向上を実現した」と説明する。

 他にも日立では、脳の一部が活性化している状態を可視化する技術「光トポグラフィ」を提供しており、バンダイと共に脳科学に基づいた玩具「ベビラボ」および「ブロックラボ」を開発した。同ブランドにて展開するアイテム数は45にまで拡大し、売り上げが25億円を突破したという。

 このようなフロント領域に対しては、「これまでマスを対象としてサービスを提供していたが、人を中心とした情報を活用することで新たな価値が創出でき、企業成長にもつながる」(齊藤氏)としている。

 最後に齊藤氏は、日立の目指す方向が「一人ひとりに最適化した価値を提供し、バリューチェーンの革新で課題解決やビジネスの成長に貢献し、イノベーションを実現しながら社会を豊かにすることにある」と述べた。