写真●新日鉄住金ソリューションズの取締役 常務執行役員 宮辺裕氏
写真●新日鉄住金ソリューションズの取締役 常務執行役員 宮辺裕氏
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 「クラウドとセンサーによって、鉄の活用範囲を広げて新しいビジネスを創造できる」――。新日鉄住金ソリューションズの宮辺 裕 氏(取締役 常務執行役員)は7月4日、日経BP社が東京都内で開催中のイベント「IT Japan 2013」でこう語った(写真)。講演のタイトルは「ビジネス創造3つの要素~ITと創る新たな鉄の役割~」である。

 宮辺氏はまず、ユーザー企業のクラウドの活用状況を分析。相応に導入が進み、コスト削減やビジネスの変化対応力の向上に貢献しつつあるとした。一方で、ワークスタイルやライフスタイルを抜本的に変革するには至っていないと見る。このようなイノベーションを起こすには、クラウド単体では難しく、「モバイル、AR(拡張現実)、センサーといった要素技術を組み合わせる必要がある」(宮辺氏)。

 例として、クラウドとARを組み合わせることで、同社のIaaS(Infrastructure as a Service)である「absonne(アブソンヌ)」の通信機器障害の復旧作業を効率化したシステムを紹介した。通信機器から収集したデータを分析して復旧手順の情報を生成。この情報を現場の保守担当者が装着するAR用の眼鏡に表示することで、作業を効率化している。「今後は同様の仕組みが製造業の工場やオフィスにも活用が進むことだろう」(宮辺氏)。

 宮辺氏はさらに「クラウドと要素技術を組み合わせることでビジネスの創造につながる」と力を込めた。その象徴的な例として挙げたのは「情報建材」。これは、鉄の建材にセンサーを装着してクラウドと連携させたものである。新日鐵住金グループの建材メーカーである日鐵住金建材が開発した、コンクリートを使わずに傾斜地の地面を補強する工法「ノンフレーム工法」を対象としている。

 ノンフレーム工法は、地面に埋め込む特殊な鉄杭と地表の揺れを抑えるプレート、プレート間を接続して強度を高めるワイヤーで実現している。プレートに張力や圧力、ひずみを検知するセンサーを装着し、センサーがひずみなどを検知した際、検知した情報をクラウドへと送信する。クラウド上で分析した情報を、危険度などを割り出したうえで周辺住民に通知する。

 こうした情報建材が象徴するように、クラウドと要素技術の組み合わせは多様な分野に新しいビジネス創造の可能性を開く。ただし、新ビジネスを創造するに当たっては、三つの要素に注目すぺきと宮辺氏は指摘する。その三つの要素とは、(1)新ビジネスを実践するためのフィールド、(2)「何をしたらいいか」というニーズを理解している業界・業務の専門家、そして(3)ニーズを「どうしたら実現できるか」を知るITの専門家という。

 つまり、業界・業務の専門家とITの専門家が企画段階から密接に連携してビジネスの仕組みを練り上げてから、フィールドに実践する。こうした態勢が整ってこそ、画期的な新しいビジネスを創出できると宮辺氏は見ているわけだ。