写真●SAPジャパンの安斎富太郎社長(撮影:井上裕康)
写真●SAPジャパンの安斎富太郎社長
(撮影:井上裕康)

 「将来、企業の情報システムは全てクラウド基盤の上に統合されると考えた方がいいだろう」。日経BP社が2013年7月3日から5日にかけて東京都内で開催中のイベント「IT Japan 2013」で、SAPジャパンの安斎富太郎社長が登壇(写真)。クラウドの活用がさらに広範囲に進展するという見方を示した。

 この発言は、ITpro中村建助編集長からの「企業は今後IT投資を進めていく際に、クラウド型とオンプレミス型のバランスをどう取るのがいいか」という公開質問に答えたもの。SAPは長期にわたってオンプレミス型で導入する業務パッケージ・ソフトウエアの会社として成長してきただけに、時代の変化を象徴する興味深い発言と言える。

 SAPは近年クラウド分野の事業を強化中。グローバルおよび日本国内でERPのSaaS(ソフトウエア・アズ・ア・サービス)の展開を進めている(関連記事)。SAPジャパンは4月に、クラウド領域における営業企画業務を担当する「クラウドファースト事業本部」を設立した。

 「それぞれの業務で適したクラウドの形態は異なる。固有の基幹業務についてはPaaS(プラットフォーム・アズ・ア・サービス)やIaaS(インフラストラクチャー・アズ・ア・サービス)の上に構築する、早期に立ち上げて試行しながら進める業務についてはSaaSを採用するといった格好だ。そうした形態の違いはさておき、やはり今後の企業情報システムはクラウド基盤の上に統合的な形で構築されるようになるはずだ」(安斎社長)。

「思いやりの心」でニーズを捉えられるのが日本企業の強さ

 安斎社長は講演において、地球規模で3つの変化が起きていると述べる。(1)資源の枯渇、(2)データ量の爆発的な増大、(3)状況の変化に応じて素早く商品やサービスを提供できる「リアルタイムビジネス」を消費者から求められるケースの増加である。

 併せて、これらの変化に対応しながらビジネスを拡大している企業や事業体の取り組みを例示した。デンマークのポンプメーカー大手グルンドフォスがデータ分析技術を活用してアフリカで効率的な水インフラを構築した例、英ブリティッシュ・エアウェイズがビッグデータの分析を通じて航空機の運行品質を高めた例、カナダのモントリオール交通局がスマホアプリを展開して交通機関利用者の増大と商圏の活性化に成功した例などである。

 紹介した事例でいずれもSAP製のソフトウエアが使われているという。「ITを活用することで、地球規模における変化に対応しつつ、新しい価値を生み出している」(安斎社長)。

 安斎社長は、これらの変化を汲んだビジネスを構想し具現化するには「個人が抱いている欲求や要求を正確に捉え、制約を取り払って自由に発想することが重要だ」と主張する。そのうえで、「個人の欲求や要求をしっかり捉えるために必須の感性が『思いやり』や『おもてなし』の心だ」と述べる。「思いやりやおもてなしは、日本人が特に重視しており、かつ得意とする考え方。日本企業は、自分たちの強みを自覚してビジネスに取り組むべきだ」と応援のメッセージを送った。