文部科学省 初等中等局視学官の永井氏(左)と、司会を務めた尚美学園大学の小泉氏
文部科学省 初等中等局視学官の永井氏(左)と、司会を務めた尚美学園大学の小泉氏
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左から、東海大学付属浦安高等学校・中等部の遠藤氏、東海大学情報教育センターの坂田氏、情報処理推進機構の片岡氏、NTTデータ(当時)の駒谷氏
左から、東海大学付属浦安高等学校・中等部の遠藤氏、東海大学情報教育センターの坂田氏、情報処理推進機構の片岡氏、NTTデータ(当時)の駒谷氏
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 日本情報科教育学会は2013年6月30日、第6回全国大会において、情報科が果たすべき役割をテーマにしたパネルディスカッションを開催した。情報科とは、高等学校の必履修教科である「情報」や、中学校の「技術」などで行われる情報教育を指す。国や産業界、教育現場などから参加したパネリストが、それぞれの立場で提言を行った。

 文部科学省 初等中等局視学官の永井克昇氏は、学習指導要領で重視されている「情報活用能力」について解説。パソコンやソフトの操作スキルの習得にとどまらず、「情報社会に参画し、寄与する力を持つこと」(永井氏)が必要だという。それには一人ひとりが主体性を確保することが求められており、「情報」はそのための教科であると述べた。

 NTTデータ 技術開発本部(当時。2013年7月1日から奈良女子大学の教授に就任)の駒谷昇一氏は、首都圏のIT企業の人事教育担当者を対象にしたアンケート調査の結果を紹介した。人事教育の担当者は、学校教育の現状について比較的関心が高い層だが、中学校や高等学校における情報教育の内容を知らない人が多かった。情報教育が行われていることすら知らない人も少なくないという。では、企業が情報教育に何を望むかというと「要求は千差万別。ソフトの操作スキルを習得させてほしいという人もいれば、それより情報モラルを教えてほしいという人もいる」(駒谷氏)。このように要求がばらつく背景には情報教育そのものへの理解不足があると考えられ、「情報教育についてもっと社会に伝えていかなければならない。企業も含めた形で、議論を盛り上げるべき」(駒谷氏)と提言した。

 情報処理推進機構(IPA)のIT人材育成本部 IT人材育成企画部の片岡晃次長は、“IT人材”の現状と育成について述べた。「これまではIT企業に勤務する人をIT人材と呼んできたが、クラウドコンピューティングの浸透により、作る側よりも使う側へと事業内容がシフトしている」(片岡氏)。IPAではこれまでIT人材育成に求められる能力(スキル標準)の定義や試験の実施などを行ってきたが、「今後はITを使う側に向けたスキル標準も必要」(片岡氏)だとした。またITを活用する企業の9割が、IT人材が不足していると考えているとの調査結果を紹介しながら、ITに関する分野は変化が激しいため、今後は「自ら学ぶ人材の育成が求められる」(片岡氏)と訴えた。

 東海大学情報教育センターの坂田圭治氏は、大学での情報教育の問題点を「新入生の情報活用力の差が大きく、各段階での学び直しが何度も行われている」と指摘。高校や社会とのさらなる連携が必要であること、現場ではカリキュラムや教材の検討・充実が求められることなどを提言した。また同大学では、スマートフォン向けのプログラミングなど、現在の大学生の興味に沿った先進的な情報教育を実施していることなどを紹介した。

 東海大学付属浦安高等学校・中等部の遠藤陵二氏は、同校での情報教育の取り組みを紹介した。同校では、基礎的なITスキルやモラルなどの習得と、問題解決能力や企画力など社会で必要な力を身に付けさせることの2つを教育目標として掲げる。基礎的な教育においては「文化祭で使用する機材を調達する際にレンタル業者に送る文書を作る」といった身近な題材を用意。社会で必要なスキル習得のためには、グループによるプログラミング学習を導入するなどの工夫をしているという。

 パネルディスカッションの司会を担当した尚美学園大学の小泉力一教授は、駒谷氏の発言などに触れながら「情報化が社会で知られていないのは歴然とした事実。社会や保護者に、情報科の中身や求められる子供たちの資質を理解してもらった上で、相互にディスカッションしていく必要がある」と述べた。

 同学会の岡本敏雄会長は、「現在の日本の情報科は、教える内容がふわふわしている。一方で、ヨーロッパの国々ではきちんとしたカリキュラムを作っている。情報科としての中身を明確にしないと、教科の独自性を打ち出せない」と指摘した。