写真●シスメックスの藤本敬二執行役員(写真:井上裕康)
写真●シスメックスの藤本敬二執行役員(写真:井上裕康)
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 企業における優れたIT活用事例を表彰する「IT Japan Award 2013」のグランプリに、医療用分析装置大手のシスメックスが輝いた。

 同社は血液検査など「検体検査」と呼ばれる分析装置を手がけ、血球分析装置では世界シェアが4割に達する優良企業である。2013年3月期の連結売上高は1456億円で、営業利益率は15.0%。世界170カ国以上に製品とサービスを提供し、海外売上比率は72.4%。上場以来、13期連続の増収および12期連続の増益を続けている。

 この好業績を「SNCS(シスメックス・ネットワーク・コミュニケーション・システム)」という情報システムが支えている。日経BP社が2013年7月3日から5日にかけて東京・品川プリンスホテルで開催中のイベント「IT Japan 2013」の初日、グランプリ受賞に当たって同社の藤本敬二執行役員が登壇し、IT活用の極意などを語った。

 シスメックスのSNCSは、顧客が持つ同社の分析装置をネットワーク経由で遠隔管理する仕組みの総称である。専用回線を通じてシスメックスのコールセンターとつながる。

 コマツの建設機械向けシステムである「KOMTRAX(コムトラックス)」の医療機器版ともいえる仕組みだ。装置の分析精度を遠隔で管理したり、故障の予兆を捉えて故障前に部品交換を実施したりと、緻密な顧客サポートを実現するためのIT基盤となっている。

 SNCSを1999年にスタートさせたきっかけは分析装置の精度管理だったという。「精度管理のためにどうしてもオンラインのデータ収集手段が必要だった。その後、遠隔サポートや稼働状況のモニター、故障予知といった機能を肉付けしていった」(藤本氏)。

 SNCNが稼働する前の同社では、分析装置の精度を管理するために、専用の試薬を顧客に送付し、結果を郵送で送ってもらい集計していた。「このデータを全国規模で集計するのに2~3カ月を要していた」(藤本氏)。SNCSを開始して以降は、このデータをリアルタイムで収集できるようになった。

高収益を生み出す三つのからくり

 藤本氏は講演の中で、SNCSが同社の高収益を生み出す「三つのからくり」について語った。その三つとは、(1)異変を即座に察知する、(2)顧客を深く理解する、(3)成長の頭打ちを防ぐ、である。

 (1)については、装置の状況をSNCSを通じて常時監視し、異変があった場合には、近場のサービスエンジニアを派遣する。サービスエンジニアの位置情報はGPS(全地球測位システム)で把握しており、スケジュールも一元管理しているという。

 (2)については、装置の動作回数など顧客の利用パターンをSNCSで収集することで、予防保守などを実現している。

 (3)については、装置の利用状況に基づき、顧客である医療機関の臨床検査室での動線短縮のために、機器配置の工夫を提案する活動なども行っている。

 今後は、SNCSを用いたサービスやネットワークをさらに発展させていく。「今のSNCSはシスメックス製の装置のみが対象。しかし、医療機関の臨床検査室では他社製も含め、様々な装置が使われている。これら全てをSNCSにつないで連携させ、検査室全体で分析データを保証する仕組みができないかチャレンジしている」(藤本氏)という。