写真●野村総合研究所で取締役専務執行役員コンサルティング関連管掌兼未来創発センター長を務める谷川史郎氏(写真:井上裕康)
写真●野村総合研究所で取締役専務執行役員コンサルティング関連管掌兼未来創発センター長を務める谷川史郎氏(写真:井上裕康)
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 「2025年に団塊世代が75歳を超え、ロボットや再生医療などの技術革新の時代が始まる。それまでの10年間に企業経営の“革新者”をどれだけ輩出できるかが、日本のカギになる」---。野村総合研究所で未来創発センター長を務める谷川史郎氏(写真)は2013年7月3日、日経BP社が東京・品川プリンスホテルで開催中のイベント「IT Japan 2013」で講演し、これからの企業経営のあり方を説いた。

 現在の企業を取り巻く現状は「超成熟社会である」と谷川氏は俯瞰する。破壊的な技術革新が停滞している一方で、少子高齢化によって非生産人口が増えている(2050年には労働人口が全体の5割を下回る)。こうした中では顧客の欲求に焦点を当てる必要があるが、超成熟社会ならではの顧客の欲求があり、これを正しく把握できなければいけないとした。

 谷川氏によれば、現代は(1)技術革新、(2)長寿、(3)透明性、の三つの分野で、時代の大きな狭間にいる。(1)の技術革新(ロボットや再生医療など)は明るい材料だが、2020年代の終わりから2030年代にかけて実現する未来の話であり、いかにこの時代へとつなげられるかが問われるという。

 (2)の長寿と(3)の透明性は、ビジネスを大きく変えている。長寿では、死亡保険よりも介護保険に人気が集まるなど、「美しく生きること」に皆の関心が移ったという。透明性については、番号制度などの時代、流行に合わせて自分を飾る意味が薄れるなど、他人と同じことをすることに価値がなくなった。こうした中で、人間関係を強く結ぶことに価値が移ったという。

何が増えているのかを調べ、客が欲するものを実直に提供

 これらの状況の変化を受けた現在は、企業経営のあり方が大きく変わっていると谷川氏は語る。例えば、商品そのものの付加価値よりもコミュニケーションの付加価値への転換が起こっている。量販(広く浅く)から質販(個に深く)へ、といった具合である。こうした変革を起こす経営者のことを谷川氏は“革新者”と呼ぶ。

 革新者の例として谷川氏は、ひつじ不動産の例を紹介した。同社はシェアハウス事業で伸びている会社である。そもそも、現在における賃貸住宅事業のトレンドは、全体の入居者数は増えているものの、入居者と空き家の比率で言えば空き家の比率が増えており、決して先行きが明るい事業ではない。こうした中、これまでの賃貸住宅とはタイプが異なるシェアハウスが伸びているという。

 「家に帰ってくると、一人ではなく他の人がいる」。これを望んでいる人が多いという。シェアハウスの住人は、人付き合いが下手だが、人との接点を持ちたい人。放っておくと住人の間で争いが発生する可能性があるので、入居者のマッチングがシェアハウス事業のキモになる。ひつじ不動産は、こうしたことを踏まえて事業を成功させている革新者である。

 革新者のアプローチは、これまでとは異なると谷川氏は指摘する。自分が知ってる話題の中から解けそうな課題を拾って解決する課題解決型のアプローチではなく、顧客が欲していることに忠実でなければだめだという。

 谷川氏が多くの革新者をリサーチしてみて分かったことは、みな総じて「増えるもの」に着目しているという事実である。今の時代に増えるものというと、「老朽化した中古住宅」、「孤独感ゆえにペットを飼う人と、ペットとの離別の悲しみ」、「正規雇用されていない人」、「人付き合いが苦手な、定年退職男性」、---などである。