写真●ジャパン・ウィメンズ・イノベイティブ・ネットワーク(J-Win)の内永ゆか子理事長(写真:井上裕康)
写真●ジャパン・ウィメンズ・イノベイティブ・ネットワーク(J-Win)の内永ゆか子理事長(写真:井上裕康)
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 「世界経済フォーラムのジェンダー・ギャップ報告(経済、政治、教育および健康の分野における男女の格差を指標化したもの)によると、世界135カ国中で、2011年は日本は98位だった。それが2012年には101位に落ちている。ここ数年、日本では女性の活用に対して積極的に動いてきたにもかかわらず、順位は下がってしまった。世界の動きは、日本よりずっと速い」。

 こう訴えるのは、NPO法人ジャパン・ウィメンズ・イノベイティブ・ネットワーク(J-Win)の内永ゆか子理事長だ。内永氏は、2013年7月3日から5日にかけて東京・品川プリンスホテルで開催中のイベント「IT Japan 2013」(主催:日経BP社)の特別講演に登壇。「経営戦略としてのダイバーシティ&インクルージョン」と題して講演を行った。

 内永氏は、日本IBMで専務執行役員を、米ベルリッツ コーポレーションで最高経営責任者(CEO)を務めた後、現在は同社の名誉会長を務めるかたわら、企業の女性幹部候補生の育成を目的にしたJ-Winの理事長も務めている。

 ITとネットワークの発達により、世界のビジネスは変化した。時間・距離・国境・階層・組織の壁は低くなり、世界のあらゆることが日々の生活に直接的に影響を及ぼしている。「変化への対応力こそが、今のビジネスには不可欠。進化論を唱えたダーウィンも言うとおり、『強いから生き延びる』のではなく、『変化に対応できたから生き延びる』」と語る。

 そこで内永氏が提言するのが、ダイバーシティ(人材の多様性)だ。「ビジネススピードが加速したことで、これからは既存のビジネスモデルをどう対応させるかではなく、別のアプローチで新しいビジネスモデルを考える必要がある。それには、同じ価値観、同じ発想、同じ歴史感を持つ人たちだけでは不十分。異なる価値観やバックグラウンド、強みを持っている人の活用が求められる。女性の活用はその最初のステップ。今後は外国人の活用も不可欠だ」と指摘する。

女性のキャリアアップを阻害する3要因

 内永氏は日本IBM在籍時に「ウィメンズ・カウンシル」に任命され、社内の女性活用に携わった。そのときに得た現場の声をもとに、女性のキャリアアップの阻害要因を3つ挙げた。

 1つ目は、将来像が見えないこと。「男性は会社中にロールモデルがいるため、将来のキャリアパスが見えやすいが、女性にはそういう存在がいないため、5年後、10年後のキャリアプランが描けない。その結果、辞めていく女性社員は大勢いる」。

 2つ目は、仕事と家事/育児のバランスだ。「『ワークライフバランス』という言葉をよく耳にするが、必要なのはバランスではなく、『ワーク』と『ライフ』を自分でマネジメントする力」と内永氏は語る。「そのためには、働き方の見直しが必要。フレックス制度や在宅勤務制度を導入し、アウトプットで評価すべきだ」。

 3つ目は「オールド・ボーイズ・ネットワーク」。これは、明文化されていない企業内のカルチャー、約束事のこと。「男性の新入社員の場合は、言葉遣いや服装などに問題があれば、先輩や上司から指摘がある。しかし女性社員の場合は違う。派手な服装でも、男性の上司は『チャーミングだね』ともってまわった言い方をするだけで、具体的な指摘はしない。これがカルチャーという名の壁となり、女性を阻害する」。

 企業内のダイバーシティを実現するには、経営トップによるコミットメント(宣言)が不可欠。専門組織を設置するほか、管理職が数値目標を設け、多様な働き方の促進、業務や評価の見える化を行うことなどが重要課題という。「ダイバーシティは女性のためのものではない。企業戦略のためにある。女性の活用はビジネスにつながる」。内永氏は、講演の最後をこう締めくくった。