写真●プライスウォーターハウスクーパースの内田士郎代表取締役会長(写真:井上裕康)
写真●プライスウォーターハウスクーパースの内田士郎代表取締役会長(写真:井上裕康)
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 「日本企業を取り巻く経営環境は、この先“不確実であることが確実”だ。経営者に必要なのは、リスクを避ける能力ではなく、想定外の事象が起きたときに瞬時に対応する決断力である」

 2013年7月3日、日経BP社が主催するイベント「IT Japan 2013」にプライスウォーターハウスクーパース(PwC)の内田士郎代表取締役会長(写真)が登壇。「持続可能な成長への処方箋」と題して講演した。

 はじめに内田会長は、PwCの調査に基づき、今後予想される世界経済の変化について説明した。

 内田会長が提示したE7(中国、インド、ブラジル、ロシア、インドネシア、メキシコ、トルコの新興7カ国)とG7(米国、日本、ドイツ、英国、フランス、イタリア、カナダの先進7カ国)の実質GDP(市場為替レートではなく購買力平価に基づく実質為替レートで算出)の経済成長軌道は、2017年で交差。E7の経済規模がG7を上回り、2050年にはG7の1.75倍にも成長する。「先進国と新興国の経済規模の逆転はすでに起こっている。2011年の時点で、インドの実質GDPは日本より大きい」。

 また、南米、アフリカ、アジア、中東のSAAAME諸国の台頭も目覚ましい。「2010年の貿易フローを分析すると、既にSAAAMEへ流入する貿易額が、SAAAMEからSAAAME以外の地域に流入する貿易額を上回っている」。

 日本国内の事象では、少子高齢化による労働人口の減少が企業経営に大きく影響する。2013年現在、日本国民の年齢構成は、20歳から60歳の労働人口が50%、65歳以上の老齢人口が25%である。これが、37年後の2050年には、労働人口42%、老齢人口39%になり、現在の社会保障制度などは機能不全に陥るという。

「M&Aで国際競争力強化を」

 内田会長は、「このようなグローバル経済の変化が予想される中で、企業にとって、もはや“成長に向けて変化を起こさないこと”自体が経営リスクである」と指摘した。「未来に対する経営アプローチには、過去/現状が持続可能だという前提で既得権益を保護するのか、過去/現在は持続不可という前提で創造的破壊を行うのか2つ道がある。今、どちらの道が正しいのかは明らかだ」。

 ところが、同社が世界68カ国・地域の最高経営責任者(CEO)を対象に行ったアンケート調査によると、日本のCEOは新規事業や新規市場の開拓よりも、本業の成長に経営資源を向ける傾向が他国よりも強かった。

 この調査は、2012年第4四半期に、世界の主要企業のCEO 1330人(うち日本企業のCEOは162人)に対して実施したもの。アンケート項目の中で、「今後1年間で、自社のビジネスを伸ばすために最も重要な取り組み」として、日本のCEOの61%が「既存国内/海外市場における本業の成長」を挙げている。

 一方、「新たなM&A、合併・共同出資事業、戦略的提携」を挙げた日本企業のCEOは6%で、米国企業(22%)、西欧企業(29%)、中国・香港企業(20%)と比較して、M&Aによる成長意欲が著しく低いことが明らかになった。

 内田会長は、日本企業が国際競争力を持つために、国境を越えたM&Aが重要だと訴える。「グローバル化とは様々な国の規制、文化に対応していくこと。“グローバル”という単一マーケットがあるわけではない。多民族・多宗教国家の米国企業や、歴史的に植民地統治に長けている西欧企業に、日本企業は単独で太刀打ちできない」。