写真●弁護士の牧野二郎氏
写真●弁護士の牧野二郎氏
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 2013年6月22日、富山市で開催された第17回日本医療情報学会春季学術大会(開催日2013年6月21~22日)で、弁護士の牧野二郎氏がビッグデータの利用と法律の関連性について講演(写真)。「ビッグデータ活用をつぶしてはいけない。もし法律がじゃまをしているのなら、法律の方を変えていかなければいけない」と訴えた。

 まず牧野氏は、ビッグデータ現象について「データの量、特に非構造化データがものすごい勢いで増えている。中でも、各種のセンサーが発信するデータが急増している」と説明した。非構造化データとは、従来のRDBMS(リレーショナルデータベース管理システム)に格納できないデータで、ソーシャルメディアに投稿される文字や画像、映像などのデータが代表例だ。

 牧野氏は「こうしたデータは今までは廃棄されていた。しかし、情報の保管・管理、解析能力の向上で、有用な活用が可能になった」と説明。例として、これまでは課金のためにしか利用していなかったアクセスログが、各種マーケティングに利用されていることに触れた。同時に、クラウドコンピューティングの普及で立ち上げやデータ蓄積の費用が低廉になったことも、ビッグデータ活用を後押ししていると指摘した。続いてデータサイエンティストについて触れ、ビッグデータの活用に関しては欠かせないと主張した。

 加えて「以前、日本で検索エンジンが多数登場したが、検索に関する厳しい法的規制を緩和しなかったために、97年までに多数が撤退してしまった。ビッグデータで同じことを繰り返してはならない。匿名化、暗号化などプライバシー問題をクリアする工夫をして、データを活用していかなくては。好き嫌いの問題ではない。それが必要な時代になってきた」(牧野氏)。牧野氏自身が成立のために積極的に関与してきた個人情報保護法だが、過剰に意識することで、ビッグデータ活用の芽を摘んではいけないとアピールした。

 続いて、一般に比べてより利用価値が比較的高いと考えられている医療分野のビッグデータだが、その活用に関して意見を述べた。牧野氏は「医療情報はセンシティブで扱いにくいが、これこそ活用すべきデータといえる」と断言。心電図や脳波などのバイタルデータを集めて解析し治療に生かす、薬品の処方情報や予防接種などの情報を蓄積して二重投与や過剰摂取を防ぐ、などの例を挙げた。「薬の処方箋にしても、データでくれればいいのにといつも思う。なぜできないのか不思議だ」(牧野氏)。

 他の問題としては、医療連携における他の医療機関に対する「第三者提供」の問題を解決しなければならないこと、利用価値が残る程度までの合理的な匿名化処理が必要であること、などを指摘した。「医師はビッグデータを利用するだけでなく、ビッグデータを作る側でもある。創薬などの利益に結びついた場合に、製薬会社からのリターンがくるような仕組みも必要ではないか」と訴えた。

 最後に「プライバシー問題があるからデータは出しません、と言っている場合ではない。たとえば、ようやく全国規模でのがん登録が開始される方向に進んでいるが、これまではがんを撲滅するという戦いの武器となるデータが非常に少なかった。データを集める際に個人情報保護法がじゃまになっているようなら、整理をしてデータを利用できる環境を整えなければならない」と結んだ。