写真●パネルディスカッションの様子。左から須藤氏、鈴木氏、岡本氏、楠氏
写真●パネルディスカッションの様子。左から須藤氏、鈴木氏、岡本氏、楠氏
[画像のクリックで拡大表示]

 日本マイクロソフトは、2013年5月30日、都内で「行政と医療の未来を切り拓く」をテーマとしたパブリックセクター ソリューション フォーラム 2013を開催。先日法案が成立したばかりのマイナンバーに関連して、パネルディスカッションが行われた。

 パネリストは、新潟大学法科大学院教授の鈴木正朝氏、弁護士・中央大学大学院公共政策研究科客員教授の岡本正氏、内閣官房政府CIO補佐官の楠正憲氏の3人で、モデレーターは東京大学大学院情報学環長・教授の須藤修氏が務めた(写真)。

 まず、マイナンバー導入で関心が高まっている個人情報保護の重要性について議論。鈴木氏は「規制緩和と規制強化の両方が必要。匿名化などで情報流通をよくすると同時に、個人情報保護法のチグハグな部分を直す必要がある」と意見を述べた。具体的には「たとえば創薬の場合、海外からだけ治験情報をもらって日本からは出さないというのは、許されなくなっている。日本人だけのデータで、国際的に販売する薬を開発できるのかどうか。その一方で、消費者保護を国際水準まで引き上げる必要があると思う」と結んだ。

 岡本氏は「主体と対象によって、適用される個人情報保護の法律や条例が異なっている。個人情報保護の問題を統一的に扱う第三者機関が必要だろう」と主張。楠正憲氏は「個人の意見としては、産業界からは厳しくて何もできないという声が上がり、専門家は欧米と比べてザルだという。これは、日本だと法律を一字一句守ろうとするのに対して、米国は法律にもチャレンジしようとする国民性の違いが大きい」と指摘。「個別の損害が小さすぎて裁判になりにくく、判例が増えないという問題もある。国際的に統一していこうという動きもあるので、日本からも参加しなければいけない」と説明した。

「そもそもマイナンバーを導入する意義は」

 民間利用に関しては、現段階では問題が多いという意見が多かった。鈴木氏は「利用するのに、事前の立ち入り調査まで受ける必要がある、そんな番号を民間で使う必要があるのか。それよりも、各省庁でユースケースを出して欲しい」と要望。楠氏は「番号制度への過剰な期待があると思う。だが、現在の“居所”の情報は番号には付属していないなど、民間利用には限界もある」と説明した。

 質疑応答では会場から、多くの番号が利用されている状況で、「そもそもマイナンバーを導入する意義は何か」という質問がなされた。これに対して鈴木氏は「たとえば、薬害対策用トレーサビリティを確保するのに利用できる。新薬の実用化までの期間短縮も可能だ。在宅医療介護にも活用できるのでは」と返答した。他の2氏も、業務の効率化や社会保障の補足率向上、災害緊急時の対応向上など、マイナンバー導入の意義はあると説明した。須藤氏も「効率化と透明性の確保に有効だと思う。自治体の現場は非常に大変になると思うが、導入する意味はある」と回答した。

 プライバシーの保護が心配だという別の意見に対して、岡本氏は「プライバシー保護が最終目標ではなく、情報を流通させて孤立防止や介護対策など、住民の利益になるようにしていくことが大切」と解説。鈴木氏は「ある国では、番号システムを利用して、国民側から政府のやっていることを監視できる。日本でもシステムの構築方法によっては、双方向性を実現できるのでは」と語った。