日本におけるIFRS(国際会計基準)適用の在り方に関して議論している金融庁企業会計審議会は2013年5月28日、総会・企画調整部会合同会議を開催した。前回の合同会議(関連記事:「IFRS任意適用緩和+カーブアウト」の方向性示す、金融庁審議会が議論)で提示したIFRS任意適用要件の緩和や、IFRSの基準ごとに自国で受け入れられるかを判断するエンドースメント/カーブアウトなどの方向性をより具体的に議論。特にエンドースメント/カーブアウトした日本版IFRS(合同会議では「J-IFRS」と呼ばれていた)について、多くの意見が出た。

 J-IFRSについては、前回の合同会議で金融庁が「エンドースメントIFRS」として方向性を示していた。IFRSをそのまま受け入れるのではなく、IFRSを構成する個々の基準に関して「自国で採用できるかどうか」を判断したうえで採用する、というのがエンドースメントアプローチである。このやり方によって、自国で受け入れられないIFRSの基準を除外する、いわゆるカーブアウトを実行できる。

 今回の合同会議で、金融庁は「IFRSの適用の方法について」という12ページの資料を配布。前回までの議論を踏まえて、「我が国が考える『あるべきIFRS』の姿を示すことができる」「どうしても受け入れがたい基準があった場合にカーブアウトを検討できる」といったメリットや、「使用できる会計基準が(IFRSそのもの=Pure IFRS、J-IFRS、日本基準、米国基準の)4つとなることから、制度として複雑であり、財務諸表の比較可能性が低下する」「修正項目の数が多いほど、国際的にIFRSと認められにくくなり、IFRS策定に対する日本の発言力確保などに影響が生じ得る」などのデメリットを示した。

 そのうえで、(1)エンドースメントの是非、(2)エンドースメントの主体(日本の会計基準策定主体であるASBJ[企業会計基準委員会]が適当か)、(3)個別基準のエンドースメントに関する判断基準、などの論点を挙げた。(3)については判断基準の例として、(a)会計基準に係る考え方の相違(ノンリサイクリング、のれんの非償却など)、(b)実務上の困難さ(作成コストが便益に見合わない、非上場株式の公正価値測定など)といった例を示した。

ニーズを疑問視する声も

 合同会議では、エンドースメントアプローチに対する反対意見は特に出なかったが、J-IFRSに対しては多くの意見が出た。委員の一人は、「現状のPure IFRS(指定国際会計基準)に加えてJ-IFRSも任意適用するということであれば、J-IFRSに対するニーズはほとんどないのではないか。J-IFRSは一部企業へのアドプション(強制適用)をにらんだものではないかと疑ってしまう」との意見を述べた。

 合同会議ではJ-IFRSに関する議論の前に、IFRS任意適用拡大に向けた要件緩和について議論していた。要件緩和により、Pure IFRSを任意適用する企業が増えていくのであれば、あえてJ-IFRSを設ける必要はないのでは、というのが同委員の意見だ。

 金融庁からは「任意適用拡大策によって、IFRS適用企業が増えていく。その企業はPure IFRSかエンドースメントIFRSのどちらかを使うことになると想定している」との説明があった。ただし強制適用の可能性についての説明はなかった。

 企業側の委員からは「現在、任意適用に向けて準備を進めている。J-IFRSが出てくるのであれば、任意適用の意味が薄れてしまう。J-IFRSを作るのなら、早くその方向性を示してほしい」との意見が出た。このほか、J-IFRSにより、世界での日本基準の存在感が薄まることを懸念する声が複数出ていた。

 今回の会議では複数の委員が、「J-IFRSに対するイメージが人によって相当開きがある」と指摘した。J-IFRSについて、全体で共有できるイメージをもう少し詰めていかないと、是非を議論するのは難しそうだ。

単体開示簡素化の案も提示

 任意適用要件の緩和については前回と同様、異論は出ななかった。「外国に資本金20億円以上の連結子会社を有する企業」といった要件を緩和する方向で検討が進むもようだ。合同会議ではほかに「単体開示の簡素化について」も議論した。本表(貸借対照表、損益計算書、株主資本等変動計算書)や注記事項などについては、金融商品取引法の財務諸表と会社法の計算書類とで開示水準が大きく異ならない項目は会社法の要求水準に統一する、単体開示のみの会社については見直しを行わない、などの考え方を示した。

 単体簡素化の方向性について異論は出なかったが、「もっと徹底して簡素化すべき」「慎重に進めるべき」など進め方については異なる意見が出た。次回の合同会議の日程は明らかにしなかったが、安藤英義会長は「これまでの意見を整理したうえで審議していく」と語った。